阪神キャプテンの鳥谷敬内野手(33)は1回に左前安打、7回には中前安打。2本の安打で通算1657安打として、同1656安打の「掛布超え」を達成した。

 快勝直後の阪神鳥谷が驚いていた。報道陣が取り囲むと目を大きく見開き「エッ、俺も取材なの?」というような笑みを浮かべた。そうなのだ。ワンプレーに執念がこもる。3点リードの7回1死、二塁走者として取った行動が象徴していた。ゴメスの左飛を捕る枡田の姿勢を見逃さない。落下点に合わせて捕っただけ。三塁に送球する備えを欠いた動作を一瞬で見抜いた。

 「後ろから(捕球に)来られていたら(三塁に)行けなかった。向こうの動きでね。甲子園で試合をしているわけじゃないから難しい。大事にいっていた」

 得点には結びつかなかったが、三塁に達するタッチアップが光る。1歩でも先へ。この気持ちが大事なのだ。この日は区切りの試合だった。1回、先頭で塩見の内角球をとらえ左前へ。先制につながる一打を放ち、幸先良く交流戦のスタートを切った。ありふれた安打ではない。1656安打目。ミスタータイガース掛布(現阪神DC)に並び、7回の中前打で抜いた。通算安打数で球団単独6位に浮上した。

 「意識していないです。ヒットを1本でも多く打てるように頑張ります」

 数年前から甲子園での試合後、クラブハウスで夕食が出るようになった。独身選手は「ありがたい」と感謝する。実は鳥谷の発案だという。球団関係者は「運動後に食事できるのは理にかなっている」と言う。運動直後がもっとも栄養の吸収がいいのはスポーツ栄養学の常識だ。いかに早く体を回復させるか。鉄人の知恵が、いまのタイガースに生きている。継続する尊さを体現する男が、また1つ勲章を得た。【酒井俊作】

 ▼鳥谷が2安打を放って通算1657安打とし、掛布1656安打を抜いて球団史上6位となった。5位真弓に17安打、4位藤村富に37安打、そして3位和田に82安打としており、今季中の単独3位浮上の可能性も十分。

 ◆掛布DCと鳥谷 掛布DCが就任して初めて迎えた14年宜野座春季キャンプで鳥谷を指導。本塁打を量産するために助言した。今季のキャンプ指導でも飛距離アップのヒントを授けていた。普段から屈強な体に舌を巻く。「僕より体が強い。金本と同じくらいの強さを持っている。金本くらいの数字を出してもおかしくない」と評している。