1、2、3ダー! イワサダー! 阪神岩貞祐太投手(23)が「日本生命セ・パ交流戦」のロッテ戦に先発し、7回途中5安打無失点。昨年8月17日以来のプロ2勝目を挙げた。この2試合で逆転満弾、1イニング8得点と猛威を振るったロッテ打線にもびびらず、ガンガン攻めて甲子園初白星。闘魂みなぎる2年目ドラ1が雄たけびを上げた。

 もう、応援してくれる人を裏切ることはできなかった。岩貞の今季2度目にしてラストチャンス。「これを逃したら今シーズン、1軍には上がれないと思って投げました」。腕を振り、勢いの戻った直球は、得意のスライダーやチェンジアップを引き立てた。7回途中5安打無失点で甲子園初勝利。本拠地のお立ち台は夢心地だった。

 「最高に気持ちいいです。(景色が)黄色いです」

 11日前の夜。今季初登板のDeNA戦で3回途中4失点KOを喫した岩貞は試合後、追い打ちをかけるショックな出来事を知った。

 「やらかした。本当に申し訳ない。監督に電話して謝らないと…」

 大学4年間を過ごした横浜での里帰り登板には、サプライズが仕掛けられていた。母校・横浜商大野球部はその日、午前10時半から春季リーグ最終戦を戦っていた。試合終了は午後1時18分。敗戦に落ち込むナインへ佐々木正雄監督(66)は「岩貞を応援してこい」と、横浜スタジアムへ主力メンバーを含む約30人の部員を向かわせていた。急いで荷物をまとめ、直線距離で約10キロ離れた球場にたどり着いた後輩たち。ところが、岩貞の姿がなかった。

 午後1時開始のデーゲームで、早々に降板していた。開幕1軍を逃し、必死につかんだチャンスは1度で台なし。自分のふがいなさを重ねて責めた。

 「僕は甘かったんだと思います。心のどこかで勝てるだろうと思っていた。大学時代はハマスタであんなにベースカバーに走ったことはなかった。次は2カ月後ぐらいですかね…。今度は本当に失敗できない」

 その夜、気付けばアルコールを手にしていた。熊本出身で「アイツは黙々と飲み続ける」と言わせる酒豪。そんな男は「最初はつらいけれど野球のために」とシーズン中の酒を控えてきた。2軍では火曜日の登板に向けて、2日前は整体へ。全体練習休みの月曜日は必ず屋外で体を動かしていた。徹底していた自己管理がぐらつくほどの悔しい一戦。予想外に早かったリベンジの舞台では、吹っ切れるしかなかった。

 「同期の岩崎は僕より勝っている。今回同様、気持ちで負けないように、本当に1球1球に思いを込めて投げたいと思います」

 心を折り、原点に戻り、つかんだ1勝。その姿は周りの期待と一致していた。【松本航】