また大学未勝利男が、混戦セ・リーグで輝いた。法大で未勝利、社会人の王子を経てドラフト5位入団して2年目の阪神山本翔也投手(26)がプロ初先発で初勝利を挙げた。強打のDeNA打線をひょうひょうと5回2失点に抑えた。前日は2点リードの9回裏に逆転サヨナラ負けを喫した阪神だったが、継投で勝利して首位浮上。新星左腕の活躍で、勝率を5割に、セ・リーグ唯一の借金のないチームとなった。

 諦めなかったからこそ、この1勝がある。山本は満面の笑みで呉昇桓からウイニングボールを受け取った。3-0の5回。2死一、三塁から3番梶谷に右中間フェンス直撃の2点適時二塁打を浴びた。あと数十センチでスタンドイン。一息つき、筒香を直球で左飛に抑え、何とかリードを守りきった。

 「試合に入るまでは緊張しました。(チャンスは)今回しかないと思っていたので」

 初先発が決定した1週間前から緊張しっぱなしだった。試合前は先攻なのにベンチ前でキャッチボールをしかけた。1軍に呼ばれるライバルを横目に、2軍で結果を残し続けた。ようやく巡ってきた初先発で、プロ初勝利。山本コールを浴びたお立ち台で「次はしっかり投げるので、これからもよろしくお願いします!」と声を上げた。

 仲間が力を与えてくれた。プロ1年目の昨年、ユニホームの後ろポケットにはリストバンドがあった。13年5月、急性リンパ性白血病で倒れた、社会人王子の真弓竜一さん(23)のものだった。エースと4番。寮では隣部屋だった。「どっちが先にプロに行く?」と語り合った。13年ドラフトで阪神の指名を受け、一瞬迷った。「プロに行ってもいいのか」と入院中の真弓さんに相談した。「行けるときに行ってくださいよ」と背中を押された。

 16年度からの野球界復帰を目指している真弓さんに、プロ入りが決まると、リハビリのための靴を贈った。「あいつなら絶対に復帰してくれると信じてますから」と強く望んでいる。

 法大時代の公式戦登板は3試合のみ。同期が参加する王子の練習に同行。球のキレ、気持ちの強さが、当時監督だった藤田貢副部長の目に留まった。「エースになります」と宣言して入社。あのとき、野球をやめていたら、プロを諦めていたら阪神山本はいなかった。セ・リーグ全球団が借金を抱える史上初の異常事態が舞台だった。負ければ5位転落の可能性もあった中、不屈の左腕が、首位返り咲きを運んできた。【宮崎えり子】

 ◆山本翔也(やまもと・しょうや)1988年(昭63)10月12日、福井県生まれ。福井(現福井工大福井)で1年夏に甲子園に出場も登板機会なし。法大を経て、王子製紙(現王子)で3度、都市対抗出場。13年ドラフト5位で阪神へ。今季ウエスタン・リーグで18試合に登板、3勝0敗で防御率0・85。183センチ、89キロ。左投げ左打ち。

 ◆大学リーグ戦未勝利男 阪神山本は法大時代の07~10年、東京6大学リーグで未勝利だった。リーグ戦では4年春に1試合、同秋に2試合登板しただけ。法大では1年上に二神(現阪神)、同期に加賀美(現DeNA)、1年下に三上(同)、2年下に三嶋(同)らがおり、層が厚かった。今月1日には亜大時代に東都大学リーグ未勝利だった広島薮田が、巨人戦でプロ初勝利を挙げた。