全セ先勝を運んだのは、巨人阿部慎之助内野手(36)の逆方向だった。先頭で迎えた同点の6回、第3打席。ロッテ涌井の外角球にコンタクトした。体が止まり、頭が残り、バットが走った。東京ドームで最も多くの本塁打を放っている男らしく、計算ずくで左翼席前列に落とした。最高の技術を披露する球宴らしい「ザ・慎之助」の決勝アーチ。球界挙げて時短に挑戦している今季では珍しく、ベンチは総出で迎えた。

 ホームランの“ツボ”を知っている。試合前はDeNA筒香を乗せた。ホームラン競争の打撃投手を買って出て、大好きな内寄りの半速球を多投した。本職顔負けの制球力で若武者の飛距離を引き出し、ぶっちぎり優勝を好アシストした。剛の筒香、柔の阿部。パワー自慢がそろうパのお株を奪った。

 お祭り男。今年はエンジョイとは少し違った。第1戦の5番に起用されたことを申し訳なく思った。「チームでも6番なのに、5番で大丈夫かな…。ホセ(ロペス)の方が成績を残しているのに。いいのかなぁ」と神妙だった。「ファンに『阿部はもう、終わってしまったのではないか』と思われている。まだ現役でできるところを見せたい」。自分にしか描けない美しい円弧で敢闘選手賞をゲットし、阿部は阿部、を証明してみせた。

 ボスの言いつけも守った。全セ原辰徳監督(56)は「交流戦でやられた分、総合力で勝つ」と必勝を宣言。一振りで応えた重鎮に「非常に良かった。シーズンでも打ってくれるでしょう」と喜んだ。いい逆方向だった。反応で打ったか。セの強さを示せた…。阿部はあらゆる問いを「そうですね」と受け止め、日常よりもずっと歩を緩め、手ごたえをかみしめながら本拠地の通路を引き揚げた。【宮下敬至】

 ▼阿部が勝ち越し本塁打。阿部の本塁打は07年第2戦で田中(楽天)から逆転3ランを打って以来、8年ぶり2本目。球宴で8年ぶりの1発は87年衣笠(広島)の12年ぶりに次ぎ、85年若菜(大洋)88年岡田(阪神)12年中村(DeNA)と並び2番目のブランクだ。東京ドームの球宴は8試合目だが、巨人選手の本塁打は初めて。巨人選手の本拠地球場での1発は、後楽園球場時代の71年第3戦長嶋以来、44年ぶりになる。