男気(おとこぎ)入魂の45球だった。広島黒田博樹投手(40)が先発し、1回はパ・リーグの猛者から3三振を奪い、2回無失点に抑えた。ファン投票で8年ぶりの球宴出場を決め、マツダスタジアムでは初の球宴登板。右肩と右足首の炎症からの復帰登板で、復調とともに、ファンへ感謝の意を球に込めた。

 球宴ならではのシーンにも、黒田は冷静だった。「ブゥーーン」。1回1死一塁で全パ3番の柳田を迎えた。風を切る音が聞こえて来るほどのフルスイング。迫力のスイングにスタンドが沸く中、黒田はマウンドの周りを歩き、ひと呼吸置いた。132キロのスライダーで打ち気の柳田の裏をつき、最後はスプリットで空振り三振。配球、間の取り方、マウンドでの表情。シーズンと変わらぬ黒田が、歓声を独り占めした。

 「広島でオールスターに出るのは初めてで、ファンの人にこれだけの声援をもらって、すごくうれしかった。こみ上げるものがありました」

 表情を引き締め、いつも通りの姿を見せた。「真っすぐだけで抑えられる投手ではないですから」。立ち上がりから全球種を駆使した。1回は奪三振ショーだ。秋山はスライダーで空振り三振を奪うと、交流戦では3打数2安打の柳田も三振。最後は中田をスライダーで空を切らせた。2回はベテランの真骨頂。「ゲッツーが欲しいところ。イメージして投げた」。1死満塁で炭谷を外角ツーシームで注文通りの二ゴロ併殺。任された2回を投げ切った。

 右肩と右足首の炎症のため、8日に出場選手登録を抹消された。中10日を空けての球宴登板は、後半戦への試金石。ファン投票で8年ぶりの球宴出場を決め、マツダスタジアムでは初の球宴登板。お祭りで終わらせることはできなかった。2回1死一、二塁、顔の右を襲う中島のライナーに、思わず商売道具の右手を出した。「小さい頃から野球をやってきたもの(本能)かも」と苦笑い。それほど本気だった。肩と足に「不安はない。投げた後の感じは問題ない」。パの強打者を相手にした45球で、復帰への手応えをつかんだ。

 今季、米大リーグ球団の高額オファーを蹴って古巣に帰ってきた。地位や外見を気にしない男気が、日本のファンをひきつける。地元ファンで真っ赤に染まった球宴を、広島勢の舞台に導いたのも、ほかならぬ黒田の男気だった。【前原淳】

 ▼40歳5カ月の黒田が先発。球宴の最年長登板記録は05年第2戦工藤(巨人)の42歳2カ月で、40代で登板は08年第1戦下柳(阪神)以来5人、6度目。先発したのは97年第1戦大野(広島)に次いで2人目だ。黒田は2回を0点に抑え、40代投手が無失点は97年第1戦大野に次いで2人目になる。