阪神のベテラン安藤優也投手(37)は実に肝が据わっている。想定外の出番でも動じない。7回無死一塁で先発岩崎が左足をつって緊急降板。しかも、4番筒香との対決だ。ここでスクランブル発進した。今季初対戦の主砲相手に、3ボールからフルカウントに持ち込んだ末に痛烈な右前打を浴びてしまう。

 3点リードだった。1発同点の一、三塁。ロペスを迎えて、薄氷を踏む展開に陥る。それでも、心は乱れない。「ある程度、準備をしていたけどロペスくらいからだと思っていた。急は急だよね。何とか岩崎に勝ちをつけてあげたかったから」。心を整えた。助っ人の打ち気をそらすスライダーでファウルを誘って追い込み、1球、ボール球の直球を挟む。その直後、フォークを低く落とし、空を切らせた。

 バルディリスも同じ攻めで、最後は落ちる球で空振り三振。反撃を阻んだ。和田監督は「筒香には打たれたけど、その後が安藤の真骨頂。そこからが強い投手。いつ何があるか分からないという気持ちで準備してくれている」とたたえた。

 かつて地獄を見たから、窮地で冷静でいられる。実は1度“引退宣告”を受けた身だった。絶不調だった11年頃、よく的中すると評判だった関西近郊の占い師を訪ねた。追い詰められていた気持ちに追い打ちをかけるように、予想外のひと言を聞いた。「いまの仕事をやめて、整体師になりなさい」。負けん気に火がついた。「エッて。何を言ってるんやってね」。未来はいつも人に指図されず、自分で切り開くものなのだ。

 シーズン佳境に入り「優勝のチャンスだから、暑いなか大変だけど、みんな大変。力を合わせて勝っていきたい」と言う。試練を乗り越えてきた男が、修羅場で踏ん張る。【酒井俊作】