球団史上ワースト13連敗という苦境を乗り越えた西武に、エースが帰ってきた。岸孝之投手(30)が日本ハム大谷に投げ勝ち、1失点で今季初の完投勝利。6月26日以来2カ月ぶりの2勝目を挙げ、対日本ハムの連敗も7で止めた。この間は自身も3戦連続完投負けするなど苦闘続きだった。7回に1点を先に許したが、その裏メヒアに逆転2ランが出ると最終回には最速149キロを出すなど力を振り絞って投げ抜いた。

 131球目、田中を内角147キロ直球で二ゴロに打ち取ると、岸はマウンドの横でしゃがみ込んだ。しばらく立ち上がれないほど疲れ切っていた。2死走者なしから迎えた中島の6球目に、この日最速149キロを投げ込んだがファウル。カウント2-2からの7球目148キロ真ん中低め直球を左前に運ばれ「ガクッと来た」と言う。それでも7回に適時打を許した田中に打たれるわけにはいかなかった。「2点目はやれない。銀(炭谷)にも言われていたので」と力を振り絞った。

 12連敗で迎えた4日の楽天戦前には「僕が止めます」と力強く言った。それまで3試合連続で敗戦投手となったが、失点は1、2、2ですべて完投し内容は良かった。エースの意地があったが、結果は逆に5回4失点で降板。勝ち負けはつかなかったが、チーム史上ワースト13連敗となった。「もう大きなことは言いません。勝ったら話します」と、10日の練習後は言葉少なに引き揚げた。もう言葉ではなく、行動で示すだけだった。

 プロ入り9年目で一番苦しいシーズンとなった。キャンプインの2月1日に背中を痛めてリタイア。開幕直前には左脇腹を痛め開幕投手を回避した。戦列に復帰したのは6月4日。それからも勝てたのは同26日の日本ハム戦だけ。打線の援護に恵まれなかったが、逆に自分を責めた。「いい投手と投げ合っているのに先に点を取られていた。今日もその流れだった」と。

 メヒアが逆転2ランを打ったとき、ベンチで後ろを向いていた。「ゲームを作っていれば必ず取ってくれると信じていた。救われた」と、奮い立った。8回を3者凡退に抑え相手に流れは渡さなかった。田辺監督も「岸の好投に尽きる。最後まで行かそうと思っていた」とエースを信じた。3位に再浮上するには、岸の力が不可欠だからだ。【矢後洋一】