金本阪神の「拡大クローザー」構想が明らかになった。阪神金本知憲監督(47)が次代のクローザー育成を念頭に、セーブ状況で若手を抜てきするプランを披露した。今季まで呉昇桓が2年連続セーブ王に輝いたが、後継者の台頭は懸案。指揮官は呉昇桓の残留を前提として、歳内宏明投手(22)や松田遼馬投手(21)に修羅場を経験させる起用法を描いている。

 新人監督ながら、チームの泣きどころを克服する妙案を温めていた。今季まで2年間は韓国最強クローザーの呉昇桓が活躍し、2年連続でセーブ王に輝いた。しかし、いつまでも助っ人に頼れない。後継者の育成は長年の課題だったが、今年も剛腕松田が不振で、必勝リレーに割って入る戦力の台頭に乏しかった。どうすれば若手が伸びていくのか。指揮官は明確なビジョンを持っていた。

 「例えば最終回、3点リードして、セーブがつく場面で、相手が下位打線とか、代打が残っていなかったら呉昇桓を休ませて、若い投手を。松田とか歳内とかね。走者が出てピンチになったら呉昇桓に行ってくれと。若手を使いながら呉昇桓も使うのが理想」

 リードした最終回は独特の重圧に包まれる。その修羅場を乗り越えてこそ、リリーフエースへの足掛かりになる。ここへ歳内や松田ら、若い救援投手を投入するプランを思い描く。今季で2年契約を終える呉昇桓の去就は不透明で、あくまで来季残留を前提とした継投策。若手に成功体験を積ませ「第2クローザー」に育て上げる狙いがある。

 「僕は中継ぎの投手を休ませて、たまに出てボンッと投げさせたい。休ませたいタイプ。それぐらい余裕をもって若手をチャレンジさせたい。それが理想。呉昇桓にはもちろん伝えますよ、それは。もし、ピンチになったら頼むかもしれない、申し訳ないけども」

 イキのいい20歳代でシーズン通して救援陣の主力を張る若虎は近年、誰も出ていない。今季、150キロ超の速球を武器にする松田が足踏みした。一方で、成長ぶりを示したのは歳内だった。29試合に登板して防御率2・62と安定した成績を残した。若手が炎上すれば呉昇桓に火消しを求めるなど、リスクを自覚しながらも前に進む。指揮官のプランに歳内も語気を強める。

 「向こうの打者は最終回で必死さが変わってくる。そういう場面で抑えるのと6点差で負けている場面で投げるのとでは変わってくる。やったことがないので技術面、精神面は分からないけど、割って入っていければ個人的に成長できる」

 絶対的なリリーフエースが君臨する間に後継者を育てるのが理想。金本監督は「やるからには勝ちながら再建するのが理想。勝つことを最優先するなかで改革していきたい」と話してきた。若手を独り立ちさせるために、あえて険しい道に突き落とす。温かくも厳しい金本流で、不動の守護神育成を目指す。【酒井俊作】

<阪神の守護神経緯>

 ◆ダブルストッパー(85年) ベテラン山本和行と2年目の中西清起がそろって抑えに。9月に山本がアキレスけん断裂で離脱して以降は、中西が1人でクローザーに。中西19セーブ、山本11セーブで21年ぶり優勝と日本一に貢献した。

 ◆安藤-ウィリアムス(03年) 2年目の安藤が救援に回り、新加入の抑えウィリアムスにつなぐパターン。安藤は防御率1・62と安定感を見せ、左横手のウィリアムスは25セーブと期待にこたえた。

 ◆JFK(05~08年) 実績十分のウィリアムスに加え、藤川球児、久保田智之がリリーフ専念。05年は久保田が、06年途中からは藤川が抑えに。終盤の3イニングを3人で抑える球史に残るトリオとなった。久保田は通算47セーブ、藤川は220セーブ。

 ◆呉昇桓(14、15年) 韓国最多セーブの「石仏」獲得。1年目に39セーブ、日本シリーズ進出貢献。今季も41セーブで2年連続タイトル獲得。