楽天美馬学投手(29)が心から笑った。試合終了を告げるマウンド上で、何度もガッツポーズを繰り返した。「スイスイいきすぎて、ちょっと自分でもびっくりしてます」。13年10月クライマックスシリーズ(CS)第3戦で完封しているが、レギュラーシーズンは初めて。今季の12球団一番乗りに加え、無四球3安打での96球は球団史上最少投球数の完封だった。「長かったですけど、やってみたら早かったですね」とかみしめた。

 昨年9月、約15センチの手術痕が残る右肘に4度目のメスを入れた。遊離軟骨を取り除くクリーニング手術。慢性的な違和感が消えた一方で、手術直後は右肘が思うように動かなかった。「リハビリ、かなり苦労したんです。こんなに戻らなかったのは初めて」。本当に1軍のマウンドへ戻れるのか。人知れず不安と闘ってきた。

 だからこそキャンプ中は投げることが楽しかった。ブルペンでは、150球を超えた日も試合を想定。仮想の打者を置き「今日は3失点。完投できませんでした」と本番同様の配球、緊張感を持って投げ続けた。自身も遊離軟骨除去手術を経験した与田投手コーチは、そんな姿を鮮明に覚えている。

 与田コーチ 手術をすると痛みの記憶から体を大きく使えなくなる。克服するには強い気持ちが必要。美馬はそれをやったんです。

 この登板にかけていた。客席からは、がんで闘病中の母明美さんと、父孝好さんが見守っていた。「母親の前でいいピッチングができた。よかった」と感情を込めた。直球は最速150キロ。左右の変化球を両サイド低めに集め、27アウト中15をゴロアウトで奪う真骨頂の投球だった。「自分の中で、今日の完封はCSの時より大きいかもしれない。相当、自信になりました」。満開の笑顔で完全復活を告げた。【松本岳志】

 ▼美馬が96球でプロ初完封勝ち。100球未満で完封は15年8月15日西(オリックス=95球)以来となり、楽天では09年8月5日藤原がオリックス戦で記録して以来2人目。藤原は98球で、美馬の96球は球団史上最少投球数での完封勝ち。

 ◆美馬の右肘 茨城・藤代高3年時を皮切りに、中大2年と4年時にも計3度のメスを入れた。右肘には靱帯(じんたい)移植手術などで、今も3本のボルトが埋め込まれている。入団初年度の6月に右肘の痛みを感じ、シーズン終了まで1軍登録を抹消。以来、肘の負担の少ない先発に転向した。昨年9月に4度目の手術を行った。