一夜の夢物語じゃない、千賀がプロ初完投勝利を挙げた。ソフトバンク千賀滉大投手(23)が西武打線を圧倒。9回2死から秋山に適時二塁打を浴びて初完封こそ逃したが、三塁を狙った秋山が走塁死となりゲームセット。6安打10奪三振、135球の力投で今季2勝目。柳田がパ・リーグ記録に並ぶ15試合連続四球に3安打ともり立てての快勝で4連勝、今季初めて貯金1とした。

 最後の最後で、千賀のプロ初完封がスルリと逃げた。9回2死一塁。秋山に135球目の直球を捉えられ、右中間への二塁打で1点を失った。三塁を狙った秋山がタッチアウトでゲームセット。「(自分は)そういう人なんだなと思いました。千賀にはまだ早いということ」。プロ6年目での初完投勝利が決まったのは、ベースカバーに回った三塁側ファウルグラウンドで。苦笑いでナインとのハイタッチに向かった。

 1点リードの5回2死一、三塁で、4番中村をフォークで空振り三振に打ち取った。「ヒヤッとしましたけど…」。自分が思うような軌道ではなかった。13年に中継ぎでブレークした時の代名詞「お化けフォーク」と言われた落差は今はない。直球とフォークだけで短いイニングを抑えにいく投げ方と、先発での投げ方が違うためだ。

 「もちろんフォークをどうにかしたい。でも、相手にはまだお化けフォークのイメージがあるみたいで」。スライダーとカーブで投球の幅を広げた。9回まで150キロの直球を投げ続けられる体力も、オフから鍛えてきた。今は不安定な落差のフォークも、この日は低めに意識して集めた。フォークの精度を取り戻せば、先発千賀はまだまだスケールアップできる。

 最大の武器は体の柔らかさ。思い切り腕を振り、キレのある剛球を投げ切るベースになっている。「もろ刃の剣ですけどね」と、体が柔らかすぎて故障のリスクは高いという。それでも、武田に続く23歳の若き右腕は1年間ローテーションを守るという期待を背負う。開幕5戦目への抜てきを工藤監督は、2月キャンプが中盤にもならない早い時期に決めたほどだ。

 工藤監督は最後の失点に「もったいないよね。完封すれば自信になる」といいつつ「最後まで球の勢いは落ちなかった」と成長に目を細めた。うれしいはずのウイニングボールは「自分への戒めとして持っておきます」と千賀は「反省材料」にした。さらにスケールの大きな投手になるために、最後の完封お預けを胸に刻んだ。【石橋隆雄】