熊本出身の阪神岩貞がまた力投した。7回2死三塁。福田を外角チェンジアップで空振りに仕留め、10個目の三振を奪った。ピンチを脱し、控えめに左手を握りしめた。逆転サヨナラ負けで2勝目は手に出来なかったが、7回4安打無失点。シーズン初登板から3試合連続の2桁奪三振は、セ・リーグ初の快挙だった。

 「ゲームを作ることはできたんで、次は勝てるようにやっていきたい」

 笑顔にはなれない。故郷では、親戚や知人が眠れぬ夜を過ごしている。地震発生した14日夜。しばらくつながらなかった電話がようやくつながった。「ちょっとパニックになってるみたいです」。電話口の家族の声は、想像していたよりも緊迫していた。

 熊本市東区の出身。岩貞が通った小学校、中学校、高校は今、避難所になっている。小さい頃からランニングコースだった江津湖(えづこ)は貴重な水くみ場になっているという。甚大な被害があった益城町にも親戚がおり、避難生活が続く。この日も早朝から携帯電話を握り、地元の友人らの安否を確認した。

 「試合直前までずっと心配していて集中できなかった。でも必死に守ってくれる野手の方がいる。必死にリードしてくれる捕手がいる。そこは全力でいかないと失礼ですから」

 3試合でリーグトップの34奪三振。規定投球回にも達し、トップの巨人菅野と0・01差となる防御率0・83で2位につけた。ユニホームを着ている限りは活躍することが、地元の復興の手助けになる。背番号17は強い気持ちでマウンドに立ち続ける。【桝井聡】

 ▼岩貞は今季初登板の2日DeNA戦から12→12→10と3試合続けて2桁奪三振。阪神では江夏(68年3試合=2度、71年4試合)、井川(06年3試合)、能見(14年5試合)、藤浪(15年3試合)に次ぎ5人目、7度目。シーズン初登板から3試合連続は、今年の則本(楽天)に次いで4人目、5度目。過去3人はパ・リーグの右腕。セでは初で、左腕としてはプロ野球史上初めて。昨年までの岩貞は通算50回で32奪三振だったが、今季は21回2/3で34奪三振。両リーグトップの奪三振率14・12を誇る。