プレーバック日刊スポーツ! 過去の6月2日付紙面を振り返ります。2004年の1面(東京版)はダイエー杉内俊哉投手の記事でした。

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 <ダイエー6-13ロッテ>◇2004年6月1日◇福岡ドーム

 前代未聞の事件が起きた。1日のロッテ10回戦(福岡ドーム)に先発し、2回で7点を失ったダイエー杉内俊哉投手(23)が、ベンチのイスを両手で殴って負傷。福岡市内の病院で精密検査を受け「両手の第5中手(ちゅうしゅ)骨骨折」と診断された。今日2日に緊急手術を行う予定で、昨秋の日本シリーズMVP左腕の長期離脱は必至だ。チームの連勝は5で止まり、首位タイから一夜にして陥落。連覇に暗雲が漂ってきた。

 悲しい負傷劇は2回表が終了したときに起こった。福浦に満塁弾を浴びるなど、2回で7点を失った杉内はよほど悔しかったのだろう。一塁側ベンチに戻るなり、奥の列のイスに向かって、帽子とグラブをたたきつけた。それだけでは収まらない。グラウンドに背を向け、イスを右手コブシで殴りつけた。

 続けざまに利き手の左手にもコブシをつくる。左手をイスに落とす直前、城島が危険を察知し「利き手はやめろ! 」と叫んだものの、“暴挙”にブレーキがかかることはなかった。イスにはクッションが敷かれているが、両手外側にあたる骨を骨折。代償はあまりにも大きかった。

 まだ続投の予定だった。2回裏、松中が生還したときもベンチ内で迎えていた。だが、次第に両手は赤く腫れあがり、明らかに異変を示していた。急きょ、チームトレーナーとともにベンチ裏に消えてそのまま降板。ロッテ打線に粉砕されたばかりか、自らタオルを投げ入れる格好となってしまった。試合中に球場を離れ、福岡市内の病院へ直行。精密検査を受け「両手の第5中手骨骨折」と診断され、今日2日に緊急手術を受ける羽目に陥った。全治の時期は不明だが、長期離脱は避けられそうにない。

 試合は大敗し、チームは首位タイの座から1日で滑り落ちた。だが、目の前の1敗よりも、杉内のけがの方がはるかに痛い。5月中旬から和田や斉藤ら先発陣が復帰し、最大4ゲーム差あった首位西武に追いついたばかりだった。杉内は昨年10勝を稼ぎ、阪神との日本シリーズでもMVPに輝いた。大事な先発左腕抜きの戦いをしばらく強いられるとあって、王監督の表情も深刻だ。「(大敗した試合は)こういうこともある。大きな傷にはならない。だが、杉内のケガは痛い。悔しさは誰でもある。だが、何のために選手としてやっているのか。絶対にやってはいけないことだ」。

 今回の故障はプロとしての分別が欠けているといわれても仕方がない。あまりにも軽率な行動に、王監督の口調も厳しい。「かわいそうだが、チームがピリッとする材料には、なった」と、言い切った。杉内に代わり、昨年6勝のナイトが1軍に昇格する。杉内の一瞬の行動が、ダイエーを重い雰囲気に包んだ。

<今季の杉内の苦悩>

 ◆キャンプ 血行障害の影響もあり、2月8日に初ブルペン入りするなど、スローペースを貫いたが、調子は上がらなかった。オープン戦2度目の先発となった3月10日ヤクルト戦では先発5回11安打6失点という大乱調もあった。

 ◆成績 3月29日(西武戦)の今季初登板では白星こそついたが、6回途中5失点。その後、4試合連続して6回を投げ切ることができず勝ち星なし。5月11日(西武戦)は7回途中2失点と好投したが、打線の援護なく黒星。同18日(近鉄戦)には6回途中2失点で2勝目をマークしたが、同25日(日本ハム戦)では初回に連続押し出し四球を与えるなど、7回途中7失点でKOされていた。

 ◆アクシデント 4月5日(近鉄戦)、先発したが3回途中で腰の違和感を訴えて降板。翌6日に登録抹消された。21日(オリックス戦)の復帰登板では6回途中2失点も勝ち星はなかった。

※記録と表記は当時のもの