阪神岩貞祐太投手(24)は降板直後、タオルを手放せなかった。あふれ出る汗、わき出る涙が止まらない。戦況を見ながら何度も目元をふき、悔しさをこらえ続けた。信じられない幕切れの直後にはしばらく動けなかった。

 「チームが1点を守ろうというときに踏ん張りきれなかった。悔しい思いをしました。9回だけでなく相手を『いけるぞ』という雰囲気にさせてしまった。申し訳ないです」

 そう反省したが、勢いに乗る広島打線を相手に気迫のこもった投球だった。2回、新井に先制を許す1発を浴びたが崩れない。5回は1死から3者連続四球を出し、乱れかけたが田中の犠飛にとどめた。8回までわずか1安打で2失点。今季の安定感を示す好投だった。

 だが、最後に勝利まであと1球と迫りながら打たれた。完投を目指した1点リードの9回は2安打を喫し、新井を2ボールから敬遠して1死満塁。下水流こそこん身のストレートで見逃し三振に斬ったが、会沢に武器のチェンジアップを続け、最後はカウント1ボール2ストライクからの6球目を捉えられた。同点で無念の降板だ。

 「6回は自分に『ここは粘るぞ』と言い聞かせて投げました。ああいうことがないのがベストだけど、自分の中では6回以降のテンポのいい投球を今後もやっていけるようにしたい」

 香田投手コーチも「8回までは見事だった。9回は監督も迷いなく『続投』だった。最後だね。真っすぐとか違う球種を挟むとか。そのへんが勉強です」と話した。ローテーションの一角を任せられるようになった左腕。次はチームもファンも必勝を期待できる投球が目標だ。【編集委員・高原寿夫】