初めて立つ9回のマウンドでも、西武のドラフト1位、多和田真三郎投手(23)は逃げなかった。2死一塁で打席は大谷。フォークで一ゴロに仕留めると安堵(あんど)の表情を浮かべた。初の完投でルーキーの完封一番乗り。チームに15カードぶりの勝ち越しをもたらし「最後は、気持ちで抑えられたと思う。ホッとしました」とうなずいた。

 雪辱を果たした。プロ初登板初先発の5月14日の日本ハム戦(札幌ドーム)。3連続押し出し四球などで2回持たずにKOされた。「悔しい思いはずっと頭にあった。ここでいい投球をする意気込みはありました」。1球1球に全力を込めることだけ集中した。「逃げた四球では何も残らない。勝負して打たれたならしょうがない」と、最速149キロの直球を軸に内角を臆せずに攻め、同じ相手、同じ舞台で悪夢を振り払った。

 かつての仲間が原点を思い出させた。2軍調整中だった7月15日。オフを利用し都市対抗野球の三菱日立パワーシステムズ横浜の試合を観戦した。同チームでは富士大の同期で主将だった久保皓史内野手がスタメン出場。一発勝負の舞台で躍動する姿に刺激を受けた。「1球に対する気持ちの重みが自分とは違う」と気付かされた。

 翌日から土肥投手コーチの助言を受けて、下半身の再強化に着手。股割りした状態からのシャドー投球を反復し、大きく沈み込むフォームの安定化に取り組んだ。腰の押し込みが生まれ、球持ちも向上。課題の制球が安定したことが、この日の快投につながった。「完封したことは多少自信になりますが、ここからです」。背番号18を背負う男は力強く誓った。【佐竹実】