プレーバック日刊スポーツ! 過去の10月1日付紙面を振り返ります。1995年の1面(東京版)はヤクルト2年ぶり4度目の優勝でした。

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<ヤクルト5-0巨人>◇1995年9月30日◇神宮

 美穂ーッ、約束守ったぞぉー。12月に挙式するヤクルト古田が長嶋巨人倒しの祝砲で、フィアンセ中井美穂さん(30=フジテレビアナウンサー)への「V旅行に連れていく」をあっさり実現した。野村ID野球の申し子・古田のリードでブロスが完封して5―0の快勝劇。30億円補強の巨人の目の前での2年ぶり4度目の優勝、8度宙に舞った野村監督も大願成就だ。さあ、21日から仰木オリックスとの日本一決戦。古田VSイチローの対決が楽しみだ。

 稲妻のように喜びが古田の体を突き抜ける。じっとしてはいられなかった。紙吹雪とテープが乱れ飛ぶ右翼席フェンスをよじ登る。後ろからオマリーが古田のおしりを押す。フェンス越しにファンに手を伸ばした。「古田だ、古田だ!」。喜びに沸くスタンドが、古田のVパフォーマンスで熱気が最高潮にまで高まる。

 半身をスタンドの中に入れて精いっぱい手を伸ばしファンの手を次から次へと握った。ヘルメットが脱げそうになると、サッと外してスタンドへ投げ入れた。フェンスから下りると、オマリー、ミューレン、ブロスと4人で肩を組んでのVダンスも披露。「感慨深いです。僕は神宮で優勝を決めることができたのが何よりもうれしかった」。野村監督の胴上げ後のグラウンド。古田はブロスよりも池山よりも、だれよりも派手に振る舞った。

 生涯で忘れられない一瞬を、いつまでも脳裏に刻んでおこうとするかのようだった。このオフ12月10日、都内ホテルで中井美穂さんと挙式する。この優勝が最高の引き出物になるのはもちろん「優勝旅行にも連れていってあげたい」との約束もきっちり守った。やはり絵になる男だ。優勝を決める試合で、ファンが待ち望んだ祝砲一発。1点リードの4回。今季21号ソロを巨人ファンで埋まった左翼席に運ぶ。好投ブロスに、女房役が大きな大きな追加点をプレゼントだ。古田が打てば勝つ。ヤクルトの勝利が、2年ぶり4度目のリーグ制覇がその時決まったといっていい。21本のアーチのうち実に20本が白星へと結びついているのだ。

 苦しさを乗り越えての優勝は、古田の喜びを何倍にもする。2年前に初めて右手人さし指を骨折。病院でこれから治療という時に看護師が色紙とフェルトペンを差し出す。古田は「ごめんなさいね。指を骨折してるからサインできないんだよ」とやさしくほほ笑みかける。「ケガをして遊んでいた時もあった。だから今年の優勝はまたひときわうれしいんです」。どんな時にもやさしさを忘れない男だけに、今年の2年連続の骨折には野村監督やナイン、ファンに迷惑をかけたとの思いでいっぱいだった。

 神宮の4万8000人のファンの祝福が心地いい。V本命といわれた巨人をID野球で粉砕。最後は神宮で、その巨人の前で優勝を決めた。「巨人戦での優勝? 僕個人としてはあまり巨人相手を意識してなかったのでね」とさらりとかわしたが、本心は違った。5月に「もし巨人へトレードと言われたら、僕は引退するよ。野球を辞める。僕らは巨人を倒すため、巨人に負けないためにここまで頑張ってきたんだから」と言ったことがある。野村監督に負けず劣らずの反骨魂。もちろん次なる狙いは、一躍球界のヒーローとなったイチローをお得意のID野球で打ち破っての日本一だ。

★婚約者の中井美穂アナ、取材先の米国で大喜び

 古田との挙式を12月に控えるフジテレビのアナウンサー中井美穂さんは、ヤクルトの優勝決定を取材先の米サンディエゴで知った。古田のホームランを見ることはできなかったが同局を通じて喜びを語った。「開幕当初の予想を覆して優勝されたので喜びもひとしおだと思います。選手全員で獲得された優勝は大きな意味を持っているのではないでしょうか。日本シリーズでのご活躍をお祈りします」。仕事先でのことでもありさすがに古田の名前は出せなかった。米大リーグのドジャース取材で訪れたパドレスの本拠地ジャック・マーフィー・スタジアムでは、ヤクルトの優勝について「気にならないと言ったらうそになります」と本音が飛び出した。その数時間後、古田が約束してくれたハネムーン優勝旅行が決まった。

※記録と表記は当時のもの