走塁のスペシャリストが美学を貫いた。巨人鈴木尚広外野手(38)が13日、今季限りでの現役引退を発表し、都内のホテルで会見を行った。「神の足」と称される走塁技術で主に代走で活躍し、今季は10盗塁と12年連続2ケタ盗塁を記録。巨人一筋20年、通算盗塁成功率8割2分9厘は歴代トップ(200盗塁以上)。涙なく笑顔で会見する鈴木だが、衰えは感じたかと聞かれ、表情を引き締めた。

 鈴木 体力的、技術的には上がっていますが、心が離れていった。僕の仕事は一発勝負。心技体、1つ欠ければ勝負できない。プロフェッショナルとしての生きざまができなくなった時が引き際なんだ、と。

 引退か、現役か。1年間、揺れた。「準備こそが僕のすべて。でも雲行きが怪しくなってきた」。なぜか準備に没頭できず、心の乱れを消せずに戦っていた。

 そんな状態でクライマックスシリーズを迎えた。10日のDeNAとのファーストステージ第3戦。同点の9回無死一塁で代走起用されたがけん制死でサヨナラ機を逸し、延長戦で敗れて今季を終えた。けん制死が引退の原因でないと前置きしつつ「1年間積み重なってきたものが出た。すべての条件がそろってないと勝負できないと感じた」。完璧でない姿でグラウンドを駆け回るのは許せなかった。試合後、引退を決めた。

 今後は「まずは人間力を磨き、成長した姿をお見せできるように」と話した。将来は指導者として恩返しするのが目標で「心構えや取り組み方は教えられる。でも第2の鈴木尚広は出ないでほしいですね」と笑った。「盗塁は3秒あるかないか、数秒で勝敗が決まる。その一瞬のために準備して勝負する。一番魅力ある場所でした。悔いはありません」。すがすがしく、別れを告げた。【浜本卓也】

 ◆鈴木尚広(すずき・たかひろ)1978年(昭53)4月27日生まれ。福島県出身。相馬高から96年ドラフト4位で巨人入団。08年外野手でゴールデングラブ賞。15年にプロ19年目でオールスターに初出場。通算盗塁成功率8割2分9厘0毛は200盗塁以上でプロ最高。180センチ、78キロ。右投げ両打ち。今季推定年俸6000万円。家族は夫人と1男。