台湾・台中でウインターリーグを取材してきた。若虎の活躍に埋もれて紙面の記事にならなかったが、野球記者として書いておきたいことがある。鳴尾浜で同い年の高山に話題を振れば「マサタカですか。スゴイらしいですね」と言う。そうなのだ。勇躍ぶりは東シナ海を越えて聞こえてくるほどだ。

 ウワサの主は台湾で奮闘するオリックス吉田正尚外野手(23)だ。打撃練習から、1人だけスイングが違う。視察する阪神掛布2軍監督も「別格だね。すごいスイングをしている。体が小さいのに」と思わず、目を留めたほど。9日は楽天古川の速球を完璧に振り抜き、中堅へ柵越えさせた。

 僕が注目していたのは、翌10日の結果だ。というのも、349本塁打を放った掛布2軍監督が台湾で横田のアーチを見届け、こんなことを言っていたからだ。

 「ホームランバッターは3、4試合に1本の確率で本塁打を打つ計算だけど、そのペースにはならない。10試合で7本、3試合で4本とか固め打ちしないと本塁打は増えていかない。筒香もそう。打った後に、こういう打撃をできるか」

 果たして吉田は連日の本塁打を放ち、まさにミスタータイガースが示す、アーチストの資質を強烈に漂わせる。僕が帰国した翌日は2発を放ち、終わってみれば打率5割2分1厘、5本塁打、23打点、25安打の4冠王で野手MVPに輝いた。数日前に「ホームランがまだゼロなので」と話していたのがウソのようなアーチ量産ぶりだった。シーズンでも63試合で10本塁打。8、9月の2カ月で固め打ちしたものだ。吉田は冷静に「(今大会の課題は)守備です。1年間、フルに出るために」と言う。糸井が阪神に流出。外野の一角を託すべく、オリックス福良監督の指示で守備も磨く。

 吉田と高山。昨夏はユニバーシアードで、ともに主軸を張った。吉田は阪神新人史上最多の136安打を記録した高山を「刺激になります。対応力がある。当てられないような球を当てるし、力強い。読めないですよね、打撃が」と評する。高山は非凡な飛距離を誇る吉田を「大学ではリーグも違う。成績を争ったこともないので正直そこまで意識したことはない。ただ、長打力は僕も求めていかないといけない」と評する。剛と柔。近い将来、比類なき2人が日本のプロ野球界を席巻するかもしれない。

 ◆酒井俊作(さかい・しゅんさく)1979年(昭54)、鹿児島県生まれ。京都市で育ち、早大卒業後の03年入社。阪神担当や広島担当を経験。今年11月から遊軍。趣味は温泉めぐり。