肌を刺す寒さの鳴尾浜で阪神の若手や新人がダッシュを繰り返す。先週、陸上部さながらの練習で走り方を指導したのは200メートルハードルのアジア記録保持者でスプリントコーチの秋本真吾氏(34)だ。一塁走者の構えを作らせる。1歩目を踏み出す瞬間、あごを上げるしぐさを示して言う。

 「あごが上がると重たい物も押せなくなる。あごを引いた状態の方が力が入りますよね。スタートの形も同じ形で行きましょう」

 短距離のクラウチングスタート直後、あごが上がる一流ランナーはいない。始動時にフルパワーを伝える姿勢は同じだ。秋本氏は陸上、野球、サッカーなど世界のトップアスリートの動きを動画で解剖してきた。

 金本阪神2年目は「走塁革命」を目指す。昨季はチーム59盗塁で3年連続リーグ最少。窮状を打破すべく昨秋の安芸キャンプから秋本氏を講師に招き、先日も2日間、若手を教えた。2月の春季キャンプも指導する予定だ。「金本監督からは『とにかく、足を速くしてほしい』とお願いされています。コーチ陣に話を聞けば、かなり走れるチームを目指されています。純粋に足を速くする。応えないといけません」と話す。

 金本監督が現役の95年、広島は145盗塁と走りまくる。緒方が47盗塁で盗塁王に輝き、野村は30盗塁のトリプルスリー。金本も14個の盗塁を決めた。赤ヘル軍団のように足を使えるキャストをそろえるのが理想だろう。秋本氏は映像も用いて講義。12年に米マイナーで155盗塁し、昨季まで3年連続50盗塁以上を誇る大リーグ・レッズのビリー・ハミルトンが映り、マーリンズのイチローやヤクルト山田、日本ハム西川の走りも見せた。「速い選手は共通点が出てきます」と解説する。

 (1)1歩目の出だしの姿勢がキレイ

 (2)接地する場所で、かかとがつぶれていない

 秋本氏は言う。「イチローさんは、とにかく1歩目の角度が抜群。傾斜が低いから、ブレーキがかからない。スピードが乗っていく角度で飛び出してます」。日米通算707盗塁の技を引き合いに、昨季、2軍戦で12盗塁して失敗ゼロだった快足自慢のプロ3年目、植田の走りをこう評した。

 「(スタート時の)角度はすごく低いんですけど、その分、足が後ろに流れやすくなってしまう。塁間だと速いけど、長打になると足が後ろに流れてスピードが乗らなくなってしまう」

 1歩目がなければ、2歩目はない。歩幅を伸ばし、接地時間を短くして足の回転数を上げるため、つま先重視の走りも説く。細かく指摘するのは1つでも先の塁を奪うため。やはり、千里の道は「1歩」からだ。

 ◆酒井俊作(さかい・しゅんさく)1979年(昭54)、鹿児島県生まれの京都市育ち。早大大学院から03年に入社し、阪神担当で2度の優勝を見届ける。広島担当3年間をへて再び虎番へ。昨年11月から遊軍。今年でプロ野球取材15年目に入る。趣味は韓流ドラマ、温泉巡り。

 ◆ツイッターのアカウントは@shunsakai89