独断と偏見で「イタヤマン」と名づけたい。そんなニックネームがピタッとハマるほど筋骨隆々のボディーを誇るのは、阪神2年目の板山祐太郎だ。宜野座の青空に描く放物線を見ていると、今季のレギュラー争いで「台風の目」になりそうな予感すら漂う。それほど飛ばす。軽々とフェンスを越えるド迫力なのだ。

 外野手登録だが第1クールのシートノックでは一塁、二塁を守った。いずれも本命不在の空白なポジションだけに期待の大きさがうかがえる。新人だった1年前、高知・安芸で「高山に負けたくない」と言い切った。本当に向こう気が強い。実は、もう1人、負けたくない人がいるという。金本知憲という「選手」だ。

 15年11月末、梅野ら若手が広島市内のトレーニングジム「アスリート」に入門し、ドラフト指名直後の亜大・板山も参加した。その時、これまでも指導を受ける平岡洋二代表に青いシートを渡された。「監督は、これだけやっていたぞ」。手に取ると「KANEMOTO H4 5/19…」と書いてある。平成4年。SQ、BPなどメニュー、負荷も細かく記されていた。

 「監督の現役1年目の練習内容だったんです。それよりは、上を行こうと思って。上半身は勝っていたと思います。下半身は、同じくらいだったのかな」

 時間を超えて、若き日の金本に筋力トレーニングで勝負する。ロマンたっぷりの挑戦状だろう。ドラフト前、平岡は就任間もない指揮官に「金本と同じ背丈、体重で金本より、ちょっと体が強いヤツがいる」と伝えたという。それが板山だった。縁あって阪神に入団してきた。ライバル意識を燃やすのも、無理はない。

 昨秋キャンプ後、甲子園で練習していると、金本監督が姿を見せ、若手にこう言った。「鍛えながら体重を増やせ。いまは脂肪はある程度、増えてもいい。春のキャンプでそぎ落とされていくから」。昨季終了後から胸囲は4センチ増で104センチの分厚さだ。体重も5キロほど増えた。

 「『球を押し込め』というのは、監督にも言われている。強い打球が増えたのは体重もあると思います」

 打撃のフォロースルーは金本そっくりだ。鉄人が歩んだ道をゆく。ひと冬を越し、沖縄で人生を変える。(敬称略)

 ◆酒井俊作(さかい・しゅんさく)1979年(昭54)、鹿児島県生まれの京都市育ち。早大大学院から03年に入社し、阪神担当で2度の優勝を見届ける。広島担当3年間をへて再び虎番へ。昨年11月から遊軍。今年でプロ野球取材15年目に入る。趣味は韓流ドラマ、温泉巡り。

 ◆ツイッターのアカウントは @shunsakai89