極上ロース、カルビ、タン塩…。宜野座キャンプ休日前の5日夜、黒毛和牛が大男たちの胃袋に消えていく。「第1クールが終わったばかりですが今年1年、監督のためにも、一丸となって頑張っていきましょう!!」。阪神の打撃投手、ブルペン捕手らが一堂に会して思いを深める。沖縄・読谷村内の焼き肉店でチームスタッフとの食事会を催し、口を開くのは打撃コーチの片岡篤史だった。

 気配りの人である。打撃部門の責任者にとって任務の1つがドラフト1位大山の育成だ。「小さくまとまらないように育てていきたい」。この日、最終メニューで大山は中谷、高山、板山と特打。フリー打撃などを行ったが、打球の、もうひと伸びは先輩打者に一日の長がある。片岡は言う。

 「今日のメンバーとやって、自分と比べて、他の選手の打球やスイングを見て気づくと思う。差を分かるのは大事なことだからね」

 コーチは練習メニューにさまざまな意図を込める。高山らと組ませたのは自らの現在地を知るためだ。キャンプ初日には、新人を特打メンバーに指名。金本監督も「入れるつもりはなかった。ビックリした」と目を丸くしたが、片岡は「ルーキーで年も若い。普通やで」と事もなげに言った。

 物差しがある。大山と同じ即戦力の大卒新人で日本ハム入りした25年前だ。名護キャンプを「朝の7時くらいから動いて居残りまである。キャンプは死にそうや…。プロの練習は内容が濃い。それを乗り越えられて自信もついたね」と振り返る。エース西崎幸広の球筋に驚いた。「とにかく量をこなした。やるうちに上達するのが分かる。打撃も守備もね。自分のポイントというのかな。球が飛ぶようになったり、捕れるようになったり」。1年目から定位置を奪えたのも、豊富な練習量あってこそだ。

 だが、経験を押しつけない。新人の大山と糸原には第1クールの夜間練習を免除したという。「気疲れもあるやろう。俺らのときは『休養』がなかったけど、いまは練習、休養、栄養のバランスを大事にしないといけない」。まさにアメとムチ。武骨で柔軟な指導者なのだ。「この第2クールは、夜間練習も入れていくよ」。片岡と同じ道を歩めるか。いよいよ、本格的な修業に入る。(敬称略)

 ◆酒井俊作(さかい・しゅんさく)1979年(昭54)、鹿児島県生まれの京都市育ち。早大大学院から03年に入社し、阪神担当で2度の優勝を見届ける。広島担当3年間をへて再び虎番へ。昨年11月から遊軍。今年でプロ野球取材15年目に入る。趣味は韓流ドラマ、温泉巡り。

 ◆ツイッターのアカウントは @shunsakai89