ストップウオッチは1・09秒で止まっていた。午前中のブルペンで、一岡竜司投手(26)のクイックが光った。

 投手が動きだしてから捕手のミットに収まるまでの時間がクイックのタイム。カープのチームの設定タイムが1・30秒を切ることで、1・25秒で投じれば速いとされる。一般的に1・20秒を切ると、二盗を決めるのは至難の業となる。

 一岡のクイックはアベレージでも1・14秒だった。チームでは守護神中崎に次ぐスピードだ。作戦面で使う「スーパークイック」を別にすれば、一岡のクイックは球威も落ちず、制球もぶれない。セットアッパーを目指す男とって大きな武器になっている。「イチのクイックは安定している。素晴らしい」と畝投手コーチも口にする。

 もちろん簡単に習得したわけではない。「初めてプロでクイックをした時は1・7秒台でした。そんなのクイックじゃないと怒られて…。6年間で頑張りましたね」と柔らかい表情で明かした。さらに「課題はあるんですけど、速いに越したことはないですからね」と優しく続けた。

 「今年の一岡はいい」といたるところで聞く。視察した松田オーナーも目を細めていた。一岡自身も慎重ながら手応えを語る。「キャッチボールからいい感覚で投げられている。左膝に体重が乗っている感じ。指のかかりはいいです」。力感のないフォームから高めに伸びる直球で勝負出来る。「140キロ台中盤でも差し込める直球を目指しています」。一岡の最大の長所が生かされている。

 中継ぎ陣は守護神中崎、セットアッパーのジャクソン、今村は盤石。一岡は実戦でも結果を残し、方程式に食い込んでいく覚悟だ。柔らかな表情の奥に、手応えと覚悟が透けて見えた。【広島担当=池本泰尚】