阪神のルーキー大山悠輔が「プロの壁」に苦しんでいる。ここまでの実戦4試合で12打数無安打。まだ、春は遠い。打てない大山を見て、話を聞きたい人がいた。ドラフト1位。大卒。内野手。右投げ右打ち。共通点が多いのは、2度の優勝に貢献した今岡真訪(まこと、誠から改名)だ。

 いまは2軍の打撃兼野手総合コーチとして高知・安芸で指導する。宜野座の様子はCS放送でチェックするが「キャンプを通して見ていない」と言って、大山評をしない。ただ「僕と同じ立場だから」と胸中を察する。新人だった97年、キャンプから開幕まで過ごした時間に重ね合わせた。

 「2月のキャンプ、3月のオープン戦と実戦を多く積ませていただいた。吉田監督の考えのなかに、目先のことだけでなくて、僕の将来も考えて、結果が出ようが出まいが、1軍に置いてもらったと思っている」

 監督の吉田義男(日刊スポーツ客員評論家)は辛抱強く起用し、開花を待つ。オープン戦打率はわずか1割。並みのルーキーなら2軍直行だ。今岡は言う。

 「練習で考えることも大事だけど、試合で三振したり、変化球に泳いだり、真っすぐに詰まらされたりしながら自分でいろんなことを感じていく期間だった」

 2、3月は散々だった。それでも、開幕の1軍メンバーに入り、その後につながる貴重な経験になった。1年目は98試合で打率2割5分。2年目は2割9分3厘にステップアップする。吉田も当時を「打てなくても今岡を使い続けたのは、何としても、この男を一人前にしなくてはという覚悟もあった」と振り返った。

 話を大山に戻す。早くも力量を問う声が出るなど、騒がしくなってきた。将来の大砲と位置づけており、目先の結果だけで、見定めることなどできない。失敗から学ぶことは多い。開幕まで1軍で実戦を重ねるべきだし、結果にとらわれず、対応力を磨くのが大切だ。長い目で見る意味を、20年前に示したのが今岡だった。

 幸いにも、大山は「当てにいくことは絶対にしたくない」と話す。まったく自分を見失っていない。今岡も後押しする。「いまは、これまでやってきた自分の信念を曲げずに、結果に一喜一憂するな。ドラフト1位の野手として、力があるのだから」。豪快に空振りすればいい。(敬称略)