先日、宜野座で懐かしい顔に会った。埼玉・聖望学園の岡本幹成監督だ。関西人らしい柔らかい口調で言う。「アイツも、こんなん初めてやろ。下から、はい上がっていくっていう。誰にでも、いつかあることやけどな」。アイツとは、プロ14年目を迎える鳥谷敬のことだ。

 早大から阪神に、自由枠で入団。華々しい「ドラ1」の新人当初、僕が取材したのが岡本だ。高校時代の恩師が気にかけるのも無理はない。今季は、野球人生の岐路に立つ。昨年、不振が長引いて、不動だった遊撃のレギュラーを若い北條に奪われた。巻き返し、定位置を奪い返す-。意気込みの強さは沖縄に遊撃用のグラブしか持ち込んでいないところからも、うかがえる。

 シートノックを見ても信念にブレはない。一貫して北條とともに遊撃を守ってきた。キャンプも終盤に入り、シーズンを戦う形を整えていく。だから、他球団スコアラーも野手のポジションをチェックする。もっとも注目するのが、鳥谷の守る場所なのだ。ある関係者も、深くうなずく。

 「まさに、気になるところだよね。二塁を守っていた糸原を三塁に入れるようになった。いま、適性を見ているんだと思う。最近、キャンベルも二塁を守っていないだろう。二塁は本当に決め手がないし、そうなると、鳥谷が二塁になる可能性も高いのかと考えるね」

 鳥谷と北條。2人の争いは、これから本格化するといえる。そのなかで、内野の顔ぶれを見渡す。実力者と進境著しい若武者を先発オーダーに並べるのが現実的な用兵であり、勝つための最善策だろう。遊撃の席は1つだけ。つまり、ダブる。キャンプは、明日25日から最終クールに入る。今後、腰を据えて違うポジションを練習できる時間は限られてくる。だから、監督の金本知憲に聞いた。

 「競争だからね。それはあるかもしれない。キャンプで準備するに越したことはない。検討しながら」

 昨季からの流れもある遊撃北條はいまや「大本命」にも映るが、競争をうながしつつ、鳥谷と北條に二塁や三塁を守らせるプランもほのめかす。遊撃への返り咲きを狙う35歳の執念も、定位置を死守しようとする22歳の気概も買いたい。だが、何よりも優先すべきなのは勝つための道である。(敬称略)