真っすぐの軌道からスッと落ちるフォークに自然と反応した。同点の8回1死満塁。代打の広島2年目、西川龍馬内野手(22)が拾い上げた打球は、右中間を真っ二つに破った。勝ち越しの2点タイムリーで、チームの連敗を4で止めた。

 「割り切って来た球を強く打ち返すことを意識した。形はどうでもいい。バットに当たればと思った」

 昨季は主に代打、守備固めで62試合に出場したが、今季は「右膝の骨挫傷」で開幕に出遅れた。だが首脳陣はチーム状況の変化を予感してか、4月中旬にリハビリのペースアップを指示。マシン打撃再開2日で実戦復帰した。だが突貫工事の感は否めず2軍戦4試合で15打数1安打。三振と飛球ばかりで「走塁練習にもならない」と苦笑いしていた。実戦復帰から8日。「状態は良くないですけど、1軍に呼んでもらったらやるしかない」。今季初打席、初スイング。本能とセンスで打った決勝打だった。

 同学年の鈴木は、西川の打撃を初めて見た昨年1月の合同自主トレで「天才だと思った」と衝撃を受けた。「内川さんと自主トレをして自信を持って帰ってきたけど、危機感に変わった。同学年で同じような体形の選手を見て初めてすごいと思った」。鈴木の急成長の裏に西川の存在がある。

 ブランクも感覚のズレも感じさせない見事な打撃で、広島をよみがえらせた。称賛する周囲をよそに「奇跡が起きました」と連敗を止めたヒーローは笑った。首位で1・5差を死守し、明日25日から2位巨人と本拠地マツダスタジアムで3連戦。遅れてやって来た切り札が、チームに再び勢いをもたらせた。【前原淳】

 ◆西川龍馬(にしかわ・りょうま)1994年(平6)12月10日、大阪府生まれ。敦賀気比から王子を経て15年ドラフト5位で入団。敦賀気比では3年春にセンバツ出場。王子では15年に社会人日本代表に選ばれ、アジア選手権出場。プロ1年目の昨季は62試合に出場し打率2割9分4厘。オフに同学年の鈴木に「女の子のお尻みたい」と言われたのをきっかけに1日5食で増量に成功。176センチ、73キロ。右投げ左打ち。