狙っていた。ヤクルトのウラディミール・バレンティン外野手(34)が0-1の9回無死一塁、中日鈴木博が投じた初球の直球をフルスイング。乾いた打球音に本塁打を確信し、打球の行方を見ずに歩き出した。セ・リーグの本塁打争いで山田哲に並ぶ28号逆転2ランで、チームも5カードぶりの勝ち越しに成功。「思い切ってスイングしようと思った。この3連戦は活躍できていなかったから、取り戻すには本塁打しかないと思っていた」と胸を張った。

 チーム最年長左腕の背中にも奮い立たされていた。38歳石川が7回まで完全投球。直球と変化球を自在に操り、20歳の藤嶋との投手戦を演じた。8回にビシエドに初安打となる二塁打を浴びると、続くアルモンテにも安打を許して降板。2番手近藤が犠飛の1失点でしのいだが、このままなら熱投むなしく石川が敗戦投手になっていた。

 ベテランの力投に応えるためにも、黒星をつけさせるわけにはいかなかった。9回の先頭打者だった山田哲は「あれだけいい投球をしていて(負ければ)野手のせいだったので」と総意を代弁。遊ゴロに全力疾走で内野安打とし、次打者の初球から二盗を狙うしぐさでバッテリーに警戒させた。「試合前に走らないから初球から打ちにいってとバレンティンに言っていた」と狙い通りに初球の直球を呼び込んだ。バレンティンも「無安打無得点試合をしてくれればと思っていたけど、物事はそこまでうまくいかなかった。でも彼の良い投球のおかげもあって勝てた」と石川をたたえた。

 ナゴヤドームでの連敗を前日11日に8で止め、この日に2連勝。偉業達成はならなかった石川も「自分のことはそんなに信じていないので、いつか安打を打たれると思っていた。何とかチームが勝ったので良かったです」と喜んだ。ナイターで阪神が敗れ、3位に再浮上。大記録は逃したが、チームの結束をさらに深める、大きな1勝になった。【浜本卓也】