早く戻ってこいよ! プロの技術を深掘りする「解体新書」で、右手有鉤骨を骨折した日本ハム清宮を取り上げる。日刊スポーツ評論家の和田一浩氏(46)が1年目の打撃フォームと比較し、技術的に大きな改善が見られる一方で、患部の右手に負荷のかかる動作を指摘。スケールアップしての復帰を願った。

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構えを比べただけでも、清宮が「速球対策」に乗り出しているのが分かる。1年目の<1>は力感なくスッと構えているが、2年目の(1)は軸足の左膝を曲げ、角度がついている。これは早い段階で軸足に力を入れ、速い真っすぐに対して立ち遅れないようにするため。1年目は<2>から<3>で右足を上げていくが、本格的に左の軸足に力が入り始めるのは<4>になってから。一方、2年目は(3)の段階まで左膝の角度が変わっていない。

速い真っすぐに対し、早めの準備で対応するという考えは間違っていない。ただ、下半身の使い方が良くなっても、上半身の使い方と連動させて考えていかないといけない。1年目の連続写真は120キロのスライダーを右前安打したもので、2年目は外角高めの138キロの直球をバックスクリーン方向に本塁打したもの。一概に比べられないが、打ちにいく体勢(トップ)を作る<5>と(5)には共通の矯正するべきポイントがある。

トップの形を作るまでに「割り」という動作ができていない。「割り」とは、足を上げ、踏み込んでいくときにグリップの位置を捕手側に引いていく動作のこと。下半身と上半身の動きが逆の動きをすることで、体幹にひねりが生じ、強い打球を打つための力の源になる。もっと細かくグリップの動きに説明を加えるなら、足は地面に向かって下に踏み込んでいくのだから、グリップは捕手側に上がっていくような動きになる。

きれいな「割り」には、もう1つプラスの効果を生む。下半身と上半身が同じタイミングで同じ方向に動くと、球を見極める時間が短く、選球眼も悪くなる。緩急にも対応できない。しかし、下半身と上半身に逆の動きを加えることで「間」ができる。速い直球にタイミングを合わせていても、ちょっとした「間」があれば、球速の遅い変化球にも我慢できるようになる。

清宮のグリップの位置を比べてほしい。1番高い位置は<2>(2)、<3>(3)で、トップの<5>(5)では、それより下がっている。構えた位置から下がっても、トップの形になる前に少しでも上がっていればいいのだが、下がりっぱなし。頭とグリップの距離も、短くなりっぱなしで「割り」の動作ができていない。だからトップの<5>(5)で右腕が「く」の字に曲がってしまい、張りがない。これだと後ろ側からバットを出していけないし、インパクトゾーンが短くなってしまう。

<6>と<7>でへっぴり腰になる悪癖も、(6)と(7)では若干だが改善している。もう少し骨盤の角度が地面に対して垂直に近づければ、すぐに改善できるだろう。(7)での左肘の位置も<7>よりも体の前に入っている。<7>のように左肘が体の横にあると、左肘が体の前に入るスペースがなくなり、バットのヘッドが早く返りやすく、こねるようなスイング軌道になってしまう。

最大の長所は(8)以降に出ている。(8)の静止している球の位置とスイング軌道から予測すると、インパクトの瞬間は右太ももの付け根辺りになる。これだけ引きつけて、打球をバックスクリーン方向にはなかなか飛ばせない。並の打者ならインパクト前に球との距離が取れていないと、バットのヘッドをこねるようにして使い、二ゴロになりやすい。しかし(8)から(10)のスイング軌道は、リストターンを我慢して、体の正面で球を払うようにして打っている。

ポイントを近づけ、払うように打っても打球が飛ぶのは、右腕の力が強い証拠。天性の資質だろう。ただ、使いやすい右腕に頼りすぎると、負担は大きくなり、ケガのリスクも高くなる。有鉤(ゆうこう)骨を骨折したのも、その影響が出たのだと思う。遠くに飛ばすなら、きれいな「割り」を作り、左腕で押し込むような打ち方をマスターしてほしい。それが日本を代表するホームランバッターへの近道になるはず。一回り大きくなった姿で、早い復帰を願う。