ニッカンジュニア水曜日のテーマは野球です。子供、保護者、指導者の方々に、いろんな角度から有益な情報をお届けします。

野球は本来楽しいもの。子供のころは時間を忘れ、日が暮れるまでボールを追いかけた。サッカーやバスケットボールに押され、野球をやる子供が減ったと言われるが、理由はそれだけだろうか。少年野球がチーム減、選手減に悩むなか、子供たちが自主的に集まってくるチームが神奈川・横浜にある。横浜金沢V・ルークス。なぜ、人が集まるのだろうか。

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このご時世、子供たちが集まる野球チームがある…うわさを聞きつけて、横浜の金沢区にやってきた。3月中旬の祝日。南風が強く吹き、砂ぼこりが舞い上がるなか、1年生から6年生までおよそ40人の子供たちが、3つのグループに分かれ、大声をあげながらボールを追いかけていた。

5、6年生のグループがボール回しをやっていた。4つの塁に分かれ、本塁→三塁→二塁→一塁→本塁と転送していく。ノーミスで4周できるまで続けるのだが、なかなか達成できない。見守っていた田畑友志(ともし)コーチ(39)は「ちょっとみんな集まろうか」と子供たちをマウンド付近に集めた。

田畑コーチ 何でできないんだろうか? どうすればできるんだろうか?

子供たちの間から「声が出てないから」という答えが返ってくる。

田畑コーチ そうだね。いいボールが行ったらナイスボール、難しい球を捕ったらナイスキャッチ。ボールだけじゃなくて、声もつなげていこう。

「ハイ!」と元気良く答えた子供たちは再びボール回しを再開。それでもなかなかミスなく4周は達成できなかったが、ポロリや暴投は明らかに減った。

横浜金沢V・ルークスには「指導者5ルール」というのがある。

◆導く意識を持つこと

◆公平性を保つこと

◆透明性を持つこと

◆効率の向上を考えること

◆「安全より重要なことはない」と認識すること

チームには代表、監督以下、コーチを含めて20人の指導者がいる。自分の子供も所属している人がほとんどで、野球未経験者も半分近い。希望するなら誰でもウエルカムではあるが、「指導者5ルール」は必ず守ってもらう。

特に徹底しているのが、怒鳴らないこと、感情的に怒らないこと、自分の考えを押しつけず、ヒントを与えて子供たちに答えを考えさせること。田畑コーチは「子供たちを萎縮させないように気を使っています」という。

なぜ、こういうやり方を取っているのか。2年前、チームを立ち上げた中心メンバーのひとり、澤中貴司監督(50)がきっかけとなった「事件」を明かした。(つづく)【沢田啓太郎】

◆中学軟式野球部の減少 中学校の野球部のほとんどは軟式。日本中学体育連盟が加盟校を対象にした調査によると、軟式野球部の部員数の最も古いデータは2001年度の32万1629人。09年度の30万7053人から減少を始め、17年度は17万4343人と約20年でほぼ半減した。学童野球から進学する際、リトルシニアやヤングリーグの硬式チームを志したり、軟式でも地域のクラブチームに進む場合が増えていることもあるが、小学生が野球に触れる機会が減っていることが要因に挙げられている。安全面への配慮から野球禁止の町の公園やスペースが増えたり、道具代やチームのお茶当番など保護者への負担など、が野球を敬遠する理由とされている。

◆横浜金沢V・ルークス 2017年3月、選手5人でスタート。横浜市金沢区を拠点に活動し、わずか2年で選手数は46人まで増えた。月謝は3000円。VはVoyage(大航海)、ルークスはきらめき。子供たちの人生にひと筋の光を差すことができたら、との思いを込めて命名。