選手のプレーを連続写真で分析する「解体新書」。

今回は今季から先発に転向し、ここまで防御率1・45のオリックス山本由伸投手(20)と、開幕から11戦連続無失点中のソフトバンクのドラフト1位、甲斐野央投手(22)。ともにチームを代表するパワー型の若手右腕を、日刊スポーツ評論家の西本聖氏(62)が解析した。

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山本と甲斐野は、連続写真を見ても豪腕投手らしいダイナミックなフォームをしている。同じ本格派でも山本はまねをできないような独特なフォームで、甲斐野は基本に忠実なオーソドックスなフォーム。タイプの違う2人の本格派投手を比較して見ていきたい。

<1>の山本は左足をプレートの後ろに引いてから投げるノーワインドアップ。(1)の甲斐野はセットポジション。山本は<3>で左足を上げ切り、甲斐野は(4)で左足を下ろしにいっている。ここまでは2人とも特別に指摘するような動きはない。しかし、ここからはパワーピッチャー特有の陥りがちな弱点をカバーするため、それぞれの工夫が出ている。

速い球を投げようとすると、どうしても体のひねりが大きくなり、力感を求めてしまう。それで右肘が背中の後ろに入りやすくなる。試してもらえば分かるが、投げる側の肘を背中側に突き出してから肘を上げようとすると、ある程度の位置でロックしたように上がらなくなる。そこから、さらに上げるためには、体を開かないといけなくなる。

山本は体を開かずにトップを高い位置に持っていくために、<5>から<7>まで、ボールを持っている手を後ろに残すようにして上げている。ボールを持つ手の位置が、捕手側に勢いがついていく体に近づけないように体から離れているため、体を開かせなくても<8>のような高い位置でトップが作れている。

甲斐野は(5)から(7)までのボールを持つ右手首の角度に注目してもらいたい。(6)でやや外側にひねり、(7)ではやや内側にコックしていた手首の角度が解け、腕と直線になっているのが分かるだろう。本人が意識しているかは分からないが、肘から上げようとせず、ボールを持つ手から上げているからこういう動きになる。まだまだ背中側に肘が入っているが、これは許容範囲。(8)ではそれほど体が開かずに高いトップを作れており、東洋大時代より体の開きが抑えられている。

山本は<9>以降の下半身の使い方も独特。踏み出した左足が突っ張り、左ももの内側に強烈な“壁”を作っている。体が一塁側にまったく流れていない。リリースした直後の<10>でも、右腰が前に出ていない。顔の向きも捕手の方向を向いている。これだけ一塁側に体が流れないで投げられる投手は、ほとんどいない。打者はスピードガン表示以上の速さを感じるだろうし、左右のコントロールもブレにくくなる。もう少し左膝が折れ、肘が柔らかく使えると、高低の制球もよくなるだろう。

甲斐野の(9)も素晴らしい。ただ、山本と比べると、(10)で若干背中が丸くなり、(11)では腕の振りの軌道がやや横に流れている。これがシュート回転した球が増える原因。山本の<5>から<7>の右膝と比べてもらえば分かりやすいと思うが、甲斐野の<6>から<7>は内側に折れるタイミングが早い。この軸足の使い方が我慢できれば、シュート回転する抜け球は減るだろう。

パワーピッチャーとしての資質は、2人とも文句なし。ただ両投手とも上半身の力に頼りすぎの部分が見受けられる。山本は先発としてもっと楽に投げる技術を身に付ければ1年間、ローテーションを守れる。2人ともテークバックからフィニッシュまで、力を入れっぱなしでなく、力の配分に強弱をつけられると上半身の負担を減らせられる。パワーピッチャーとして、球界を代表する投手を目指して貰いたい。