「子供に運動させたい」けど、「どうすればいいの?」。そんな疑問に対し、元オリンピック委員会強化フィジカルコーチで多くのアスリートのトレーナーを務める宮崎裕樹氏(49)は、「感覚統合」を取り入れた運動を推奨した。「感覚統合」とは複数の感覚を整理したり、まとめたりする脳の機能。中でも「固有感覚」「前庭(ぜんてい)覚」「触覚」の3つを挙げたが、第3回は「前庭覚を鍛える」にスポットを当てる。【取材・構成=久保賢吾】

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宮崎氏は「今回も子供たちでも、簡単にできるトレーニングです。特別な器具は必要ありません」と説明すると、トレーニングルームに入った。第2回で紹介した「固有感覚を鍛える」運動もわかりやすく、シンプルだったが、「前庭(ぜんてい)覚を鍛える」運動も同様である。

(1)あおむけの状態で両膝を立て、両手を広げる。体をゆっくりと起こしながら(腹筋運動)、両腕を交差させる。(写真<1><2>)

宮崎氏 息を吐きながら、上半身を引き上げます。肘は曲げずに、両腕を交差させる時に手首をしっかりとひねります。

姿勢保持が重要な要素の1つで、さらに手の動きを目で追いながら、腹筋運動することで「前庭覚」が刺激される。

(2)両腕を曲げ、地面につけた状態で体を支える。右手、左手の順に腕を立て、体をしっかりと支える。(写真<3>~<5>)

宮崎氏 頭の位置を意識し、体をしっかりとひねりながら、行います。

頭の位置を保持しようとするには、平衡感覚が必要となる。すなわち「前庭覚」を刺激する。

(1)、(2)の運動ともに10回を目安にスタートし、慣れてくれば回数を増やすことをお勧めする。特別なトレーニング器具は必要なく、場所を問わず、手軽に取り組める。

第1回でも触れたが、「前庭覚」とは耳の奥にある前庭器官にあって、体の傾きを把握する感覚。運動においては、平衡感覚といわれるもので、真っすぐ立って、姿勢を保持したり、体のバランスを取ったりするために必要な機能。眼球運動に大きく関与する。また、前庭覚を刺激すると興奮状態になることから、アドレナリンにも関係するといわれる。

宮崎氏 立っている時にフニャッとして、姿勢がだらしなく見える子を見たことはありませんか? 筋力が足りないのではなく、重力に対して、筋緊張を生み出せないから、だらっとなります。では何が必要なのか。「前庭覚」を鍛えることが必要になります。

言葉だけを見れば難しく思えるが、具体例にイメージできたのではないだろうか。実は、子供のころに経験する遊びの中に、知らないうちに「前庭覚を鍛える」運動が含まれる。例えばすべり台、平均台、ぶらんこ、おんぶリレーなどである。「これらは移動している時にどういうふうにバランスを取るのかが重要な遊びです。すべり台でいえば傾斜に対して、きちっとした姿勢を取らなければ頭を打って、滑れません。バランスを取る、すなわち、前庭覚を鍛える運動ということになります」

ここまでは個々で実施する「前庭覚」を鍛える運動に特化したが、最後に野球チームやサッカーチームの指導者に向け、ワンポイントアドバイスを送った。

宮崎氏 ウオーミングアップする時に、鬼ごっこを入れるといいと思います。追い掛け合う時に急に方向変換すると思いますが、その時に頭が動くと思います。「前庭覚」が発達していなければ、うまく切り返せません。また、地面につけたバットのグリップをおでこにつけて、グルグル回る運動も「前庭覚」を刺激するトレーニングです。「前庭覚」を刺激すると、興奮状態になります。アドレナリンを上げることにもつながります。

第1回は感覚統合を取り入れた運動例を1つ紹介し、第2回では「固有感覚」、今回は「前庭覚」を鍛えることに特化した運動を紹介した。第4回では「触覚」を鍛える運動を特集する。

◆宮崎裕樹(みやざき・ひろき)1970年(昭45)3月26日、千葉県生まれ。23歳の時にオリンピック委員会強化フィジカルコーチに就任。その後独立し、事務所を立ち上げる。K-1、ボクシング、ゴルフ、野球、サッカー、テニス、ラグビー、バレーボール、競輪など数多くの選手のトレーナーを務める。17年からは「Mr.Children」のツアーに同行し、トレーニングや体をケアする。また、小学生を対象とした水泳、陸上、サッカー教室、発達障がい児、発達障がい者の運動教室を都内、神奈川県内で開催する。株式会社「TEAM-MIYAZAKI」、NPO法人「日本フィジカルサポート」の代表を務める。