「骨盤」のゆがみは、さまざまな不調の原因になるといわれる。子供でも例外ではないだろう。「骨盤」へのアプローチは、成長期における発達サポートのために非常に重要である。では「どんな運動をすればいいの?」。そんな疑問に、元オリンピック委員会強化フィジカルコーチで多くのアスリートのトレーナーを務める宮崎裕樹氏(49)が答えた。「骨盤編」の第1回は基礎トレーニングを紹介する。【取材・構成=久保賢吾】

      ◇       ◇

宮崎氏は「さっそく、始めましょうか」と言うと、背筋を伸ばし、真っすぐ立った。

(1)股関節屈曲 足をそろえた状態から、片足を前に蹴り出し、元に戻す。

宮崎氏 足の振り上げに対し、上半身が動かないように意識します。

(2)股関節伸展 足をそろえた状態から、片足を後方に蹴り上げる。

宮崎氏 蹴り上げた時に、体が後ろにそりすぎないように注意します。

(3)股関節外転 足をそろえた状態から、外側に足を開脚する。

宮崎氏 足を上げた時に、肩のラインを保って、上半身が傾きすぎないようにします。

(4)股関節内転 足をそろえた状態から、内側に足を蹴り上げる。

宮崎氏 腰をひねって上げずに、腰の状態を保ったまま上げます。

(5)股関節外旋 椅子に座って、地面から足を離し、膝を支点にして、内側に蹴り上げる。

宮崎氏 膝が外側に動かないように意識します。

(6)股関節内旋 椅子に座って、地面から足を離し、膝を支点にして、膝から下を外に上げる。

宮崎氏 足を外に上げた時に、お尻が動かないように意識します。

(1)~(6)の運動ともに右、左、10回3セットを目安に実施する。トレーニング器具は必要なく、場所を問わず、手軽に取り組める。

「骨盤」とは一体、何なのだろうか。人体の上肢と下肢の中心に位置する骨盤は下部で体を支え、上部で脊柱を通じて脳を支える。それだけでなく、臓器の受け皿としての役割、2足歩行を支える役割、座る時の体全体の台座としての役割などがある。

「骨盤」がゆがめば、どのような影響があるのだろうか。

(1)パフォーマンス低下   

骨盤のゆがみは骨盤本来の動きが制限されることに加え、骨盤周辺の筋力バランスも崩れる。それにより骨盤周辺筋で萎縮する箇所が生まれ、骨盤の柔軟性の低下及び筋力低下を引き起こす。そして、骨盤の周辺筋の筋力低下は下腹部に力が入りにくくなるため、下半身の不安定要素につながる。(O脚、X脚も骨盤のゆがみと筋力低下が影響)。そのため、下半身の運動で筋肉量を増やそうとしても、下半身自体が活性化されておらず、「引き締まらない、より太くなる」という状態を引き起こし、ゆがんだ骨盤が筋肉の衰えを助長する悪循環に陥る。

(2)健康面への影響     

下半身が不安定になれば、上半身も不安定で猫背やそり腰になりやすく、背中、胸の筋肉が動かしにくくなる。それに加え、骨盤の前面にあるインナーマッスル(恥骨、座骨、尾骨についている筋肉)は骨盤を支える役割と、内臓の位置を保つ役割(ぼうこう、子宮、直腸を支える)があるため、骨盤のゆがみなどで筋力が低下すると内臓全体が下がりやすくなる。

内臓は本来の位置にあれば活発に働くが、内臓が下がると働きが悪くなり、内臓全体も冷たくなる。体から熱を発生しにくいこの症状は体温が下がりやすく、内臓に近いウエスト周りの脂肪蓄積になる。体の興奮状態になる交感神経優位になり、内臓機能が良くなる副交感神経優位のリラックス状態にならず、消化機能にも影響が出てくる。消化機能が低下すれば代謝が悪くなり、脂肪がつきやすく、太りやすくなる。

宮崎氏 以上の点から、骨盤へのアプローチはパフォーマンスアップ、健康管理、ストレス解消、成長期における発達サポートに必要と考えられます。

骨盤編の第1回では、基礎トレーニングを紹介したが、第2回ではそれぞれのゆがみに対応したトレーニングを特集する。

◆宮崎裕樹(みやざき・ひろき)1970年(昭45)3月26日、千葉県生まれ。23歳の時にオリンピック委員会強化フィジカルコーチに就任。その後、K-1、野球、サッカー、テニス、ラグビーなど数多くの選手のトレーナーを務める。小学生を対象とした水泳、陸上、サッカー教室。発達障がい児、発達障がい者の運動教室を都内、神奈川県内で開催する。株式会社「TEAM-MIYAZAKI」、NPO法人「日本フィジカルサポート」の代表を務める。トレーニング指導、セミナーなどの問い合わせはメールアドレスtm-miyazaki@i.softbank.jpまで。