支えてくれた大先輩のために-。クライマックスシリーズ(CS)自身初先発の巨人山口俊投手(32)が、阪神打線を8回途中1失点に抑え、CS初勝利を挙げた。4回2死まで無安打投球。立ち上がりからフルスロットルで飛ばし、4安打7奪三振と圧倒した。今季限りで現役を引退する阿部の花道を飾るため、是が非でも勝ちたい一戦で、3冠右腕がきっちりと結果を出した。

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声が聞こえた。5点リードの4回2死満塁。マウンドに輪ができた。中心に立つ山口は左を向き、耳をすませた。「思い切ってどんどん点差もあるし勝負していけ」。阿部からの声だ。落ち着いた口調で発せられた言葉で気持ちを整理した。暴投で1点を失い、四球を挟み、なおも2死満塁。大山を中飛に打ち取り、崩れなかった。「最少失点に抑えられたのでよかったです」。得点圏に唯一走者を置いたピンチをしのいだ。

決戦の地に立つまでの道のりにも、常に大先輩の存在があった。16年オフにDeNAからFA移籍。「ところどころで声をかけてくださって助かりました」と慣れない新天地にもすんなりと溶けこませてくれた。今年2月26日。春季キャンプ中の練習試合で1016日ぶりにマスクをかぶった阿部とバッテリーを組み「腕を強く振れ」とアドバイスをもらった。「本当にお世話になったので、阿部さんを日本一で送り出したい」。結果で恩を返したいと心から思った。

だからこそ、大事な初戦で転ぶわけにはいかなかった。2回までに5点をもらい「ぶざまなピッチングはできないと思った」。序盤から得意球のフォークを惜しみなく使った。5回からはスライダーを軸に組み立て、的を絞らせなかった。「探りなんていらない。初球から飛ばしていく。それだけです」。一心不乱に打者へ立ち向かい、下克上を狙う猛虎打線を黙らせた。

8回1死一塁。交代を告げられ、ベンチへ小走りで戻ると阿部が待っていた。左手で背中をポンとたたかれ、126球の熱投をねぎらわれた。今後は14日の第6戦に中4日で備え、日本シリーズに進めば敵地での初戦、2戦目のいずれかの登板を見据える。「いい形で初戦がとれた。まだまだ1戦1戦気を引き締めて戦っていきます」。チーム、そして阿部のために。大きな1勝をつかんだ。【桑原幹久】