日本シリーズ史に残るような投手戦をソフトバンク松田宣浩内野手(36)が動かした。0-0で迎えた7回。打席に向かうベテランは身震いした。「(前打者の)グラシアルが四球で一、二塁なら確実にバントやん」。だがグラシアルは打ち、チャンスは一、三塁まで広がった。「ランエンドヒットやん。めちゃめちゃ緊張するやん」。それでも冷静に、するべきことは見えていた。

「最低限を考えていた」と三塁に快足周東がいる状況で、犠牲フライや暴投で何が何でも1点取るつもりだった。だから低めを2球見極め、打者有利のカウントをつくることができた。あとは思いきりいくだけ。バックスクリーンに突き刺さる先制で決勝の3ラン。「最高の舞台、最高の場面、最高の展開で最高の当たりを打つことができた」。ファン待望の「熱男!」がヤフオクドームに割れんばかりに響き渡った。

今季は交流戦でも打率3割4分8厘、7発と打ちまくった。巨人戦では11打数5安打の1本塁打。普段対戦の少ない相手を打つためのルーティンがある。「相手ピッチャーが、他の右打者に打たれている『ヒット集』をよく見ている」。頭にいいイメージをすり込むことで、場数の少なさをカバーしている。

今季14年目のベテランにとっても、巨人との日本シリーズは特別だ。前日19日の第1戦。「日本中が『巨人』と言っている中での日本シリーズ。さすがに雰囲気が違いましたね」と独特の緊張感を覚えていた。それを破ったのが相手レジェンドの1発だ。「阿部さんのホームランで試合が動いて、そこからは普通に入っていけた」。この日は5回2死まで打者29人、1人の走者も出ていなかった。そこでメルセデスから安打を放ち、試合を動かしたのは松田宣のバットだった。

8回には左飛で「テラスの申し子的には、いったと思った」と本塁打と勘違いして頭をかくシーンもあったが、松田宣らしい明るさが出てきた証拠だ。「こんな機会はなかなかない。楽しまなきゃもったいないでしょ」。熱男は元気に明るく頂点を目指す。【山本大地】