【桃園(台湾)5日】指笛が逆転劇への合図となった。侍ジャパンが稲葉篤紀監督(47)の必死のタクトで開幕戦を辛勝した。

1次ラウンド初戦のベネズエラ戦は先制点を奪われる苦しい展開。5回に逆転も6回に再逆転を許し、終盤まで敗色濃厚だった。だが8回に相手からの四球連発に乗じた。不振の坂本勇に代打山田哲を送り、会沢に代走周東。捕手3人をフル起用するなど、何とか6点を奪ってひっくり返した。6日に第2戦のプエルトリコ戦(桃園)に臨む。

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稲葉監督が両手の指を口に突っ込み、球審に向かって激しく指笛を鳴らした。2点を追う8回1死満塁。1番坂本勇に代わり、代打山田哲をコールした。「苦渋の決断だった。でもチームが勝つため勇人も分かってくれていると思う」。迷いを振り切り、決断した。

山田哲は目を見開いて押し出し四球を選び抜き、期待感を膨張させた。菊池涼の猛打賞となる左前打で同点、近藤の押し出し四球で決勝点をつかみ取り、何とか逆転した。遊撃手として40発を放った坂本勇の不調と、代打山田哲との成功率をてんびんにかけてジャッジし、流れを一変させた。昨年の日米野球でも4番山川に代打を送ったが、国際大会での決断は比べるまでもなく重い。「3打席を見ていて、少しバットが下から潜る打席が多くて、速い直球に空振り、ファウルになる。あそこは山田に懸けた」と洞察を振り返った。

試合前に「後手後手にならないように」と話した。シーズン中、国内視察を繰り返し、どの監督にも短期決戦への考えを聞くと「同じ答えが返ってきた」。菊池涼の同点打の直後には三塁走者の捕手会沢に代走周東を送った。2人目の捕手を代え、甲斐を最後の捕手として使い切っても、確実に決勝のホームを狙った。

大胆策にリスクマネジメントも交ぜた。6回1死二、三塁でゴロを打たせる目的で大竹を投入したが前進守備は敷かなかった。「結果3点は取られたが、あそこは1点はOKで1つずつアウト取っていくと。後半勝負で選択した」。2点ビハインドにとどめ、8回の勝機まで耐えた。

ベネズエラから得た8回12四球(2申告敬遠)。日本の誇る精巧な選球眼がもたらしたとも言える。一方で先発投手を攻略できなかった事実もある。メジャー通算31勝左腕の内外角の巧みな出し入れに苦しんだ。カナダとの親善試合2戦も外国人特有のムービングボールに苦しみ、先発から計6回で無得点に終わった。打線が目覚めていない。

主要国際大会の初戦で敗れれば08年北京五輪のキューバ戦の2-4以来だった。その前も00年シドニー五輪の米国戦で2-4。同じスコアで推移し、呪縛にからまれそうだったが、驚異の粘力でほどいた。試合前のミーティングで「ここにいる全員で世界一を目指す」と高らかに誓った。10年ぶり世界一へ、苦しんで、苦しんで、歩を進めた。【広重竜太郎】