日本野球機構(NPB)は毎年、小、中学生の軟式野球チームの指導者を対象に「侍ジャパン・野球指導者スキルアップ講習会」を開催している。子どもたちをケガから守り、正しい技術を指導するにはどうすればいいのか。昨年12月7日に茨城・日立市で行われた同講習会を訪れ、講師を務めた侍ジャパンU12代表監督の仁志敏久氏(48)らに聞いた。

あいにくの雨もようだったが、茨城・日立製作所野球場に県内外から約70人の指導者が集まり、講師の話に熱心に耳をかたむけた。午前中は教室で座学。午後は室内練習場で鹿取義隆氏(元巨人)定詰雅彦氏(元阪神)、仁志氏、坂口裕之氏(元日本石油)がそれぞれ投手、捕手、内野手、外野手の基本技術について丁寧に説明。その後、打撃指導も行われた。

基本技術は多岐にわたった。

▽投手=「手の甲を上にして腕を振り上げていく」「足をベルトより上に上げるようにして、腰にためをつくって踏み出す」(鹿取氏)

▽捕手=「近い距離のスナップスローと二塁への全力投球のどちらもできるように」「バッティングキャッチャーを下級生にやらせるのではなく、打者の動きを見る練習として自分がやる」(定詰氏)

▽内野手=「ボールの握り替えは足(ステップ)でやる」「捕るだけじゃなく、そこからいかにスローイングにつなげるかが大事」「片手捕球の方が効率が良い時もある」(仁志氏)

▽外野手=「フライは落ちてくるから、あわてて捕らない。もう1歩先に行ってグラブを出すイメージ」(坂口氏)。

これらの話とともに、各講師が自ら手本を見せた。

ただ講習会の後、仁志氏は子どもを教える上で技術以上に大切なものがあると強調した。

仁志氏 指導する上でまず大事なのは「子どもたちにも人格がある」と理解すること。子どもなのでできないことはたくさんありますけど、それを大人が否定すべきではない。そして自分が話すだけでなく、子どもたちの話をよく聞いてあげることが重要。しっかり聞いてくれる大人の話は、子どもたちも聞くので。

仁志氏は子供の話を聞く際のポイントとして「口角を上げて聞くこと」と説明した。口角を上げ、笑顔で聞くことが、子どもにも指導者側にも心理的にポジティブな影響を与え、子どもたちから返ってくる言葉にも違いが出てくるという。

また、若年層のうちから最高の選手を作ろうと、指導者が躍起にならないほうがいいというアドバイスもした。

仁志氏 一生懸命指導していると最高のものを求めてしまいがち。でも子どもにもできる範囲がある。「だいたいできればいい」「できないことが当たり前」と思って見ているぐらいがちょうどいい。できない時「気にくわない」と思わず、できた時に喜んであげるようにしてほしい。

近年、小、中学生を中心に草の根の野球人口の減少が叫ばれている。ただ、仁志氏は「野球だけやってほしいとは思わない」という。「他のスポーツでもいい。我々にとって重要なのは、子どもたちがどんな大人になるかということ。その中で、野球から先々につながるようなものを見つけてくれれば、たぶん続けてくれると思う」。子どもたちが素晴らしい大人になってくれることを願いながら、侍ジャパンの面々は今後も活動を続けていく。【千葉修宏】

◆侍ジャパン・野球指導者スキルアップ講習会 14年から開催され、実技の講師は、野球日本代表(侍ジャパン)の監督・コーチ・選手経験者が務める。小・中学生の主に軟式野球チームの指導者が対象。基本技術や医学、栄養学の知識を習得し、普段の指導に役立ててもらうことを目的としている。