ソフトバンク津森宥紀投手は悔しさをかみしめるように井上晴哉内野手の打球が弾んだバックスクリーン方向に目をやった。デビュー登板で最初の打者に満塁弾を浴びるのは長いプロ野球でも初めてのことだった。

2度の悲劇に見舞われたのは2回だ。先発二保旭投手が無死一、二塁からロッテ中村奨吾内野手の頭部付近へ死球を与え、危険球で退場。無死満塁でのスクランブル登板に指名されたのが、津森だった。工藤公康監督は「想定してなかった。いってもらうしかなかった」と説明。右腕は「(捕手が)座って投げたのは5球くらい」と、ほとんど肩をつくれないままマウンドへ上がった。それでも井上に対して自己最速の149キロを連発。最終的にフルカウントから148キロを被弾したが、ここから持ち前の強心臓ぶりを発揮した。

被弾後は引きずらず、5回途中まで2安打でしのぎ追加点を与えなかった。「肩は大丈夫だった。自信をもっていこうと。打たれたら仕方ない。予想外の結果(本塁打)でしたけど」。津森は真っ向勝負した結果に下を向かなかった。記録上は3回0/3を3安打1失点。それ以上にいきなりグランドスラムを浴びたことが記憶に残る。「自分が1人目。いいですね」。忘れられないデビューマウンドとなった。工藤監督も「ああいう状況でいかせたし、仕方ない」と責めなかった。

工藤ホークス初年度の15年以来の開幕カード負け越しとなった。相手もあの時と同じロッテ。もう悲劇はいらない。「負けても明るい材料はある」。ルーキーに負けじと、指揮官もしっかり前を向いた。【浦田由紀夫】