期待を抱かせた64球の内訳とは? 阪神藤浪晋太郎投手(26)が5日のウエスタン・リーグ中日戦(ナゴヤ球場)で5回無安打無失点と快投した。課題とされてきた対右打者もドラフト1位石川昂から2打席連続空振り三振を奪うなど、計5打数無安打4奪三振と圧倒した。制球難に苦しんでいた大器の復活がいよいよ近づいているのか。中日戦の全球チャートをもとに、現状に迫った。【取材・構成=佐井陽介】

無観客のナゴヤ球場。捕手長坂が外角低めに構える。直球がミットに到達。「パチッ」と響き渡る音を感じながら、ツインズ前田の言葉をふと思い出した。

あれは去年5月、パドレスの本拠地ペトコパークだったか。「晋太郎に伝えといてください」。当時ドジャースに所属していた前田はそう切り出した後、冗談めかしながら言った。

「自分だって、右バッターのインコースにはそんなに投げないよって」

2人はかつて合同自主トレをともにした仲。制球難に苦しみ、右打者の内角を突けないと指摘され続ける後輩の姿を、先輩は案じていた。あれだけの直球があれば、外角低めに制球できれば十分勝負できる-。今回藤浪の投球を確認して、あらためて前田の言葉に納得した。

5日のウエスタン・リーグ中日戦。藤浪は5回無安打無失点と快投した。3ボールになっても動じず6球連続ストライクで三振を奪うなど、制球は安定していた。ここ数年目立っていた右打者内側にすっぽ抜けた球、左打者足もとへの引っかけた球はゼロ。全64球のチャートを眺めても、制球のまとまりを確認できる。

中でも注目に値するのが、右打者に投じた全球チャート。計32球のうち25球、実に78%が原点、いわゆるアウトロー付近に集まっている。平田2軍監督は「アウトローの質が違う」と絶賛。外角低めに直球、変化球を出し入れするだけで、5打数無安打4奪三振と難なく右打者を封じ込めた。

直球3球が内角高めに向かっているが、これもストライクゾーン付近に収まっている。たまに逆球となった内角球を意識させながら、外角低めで勝負する。本来の藤浪の投球スタイルが戻りつつあるのだと、チャートが教えてくれる。

ちなみに、右打者への2四球は丁寧に配球した末にフルカウントから与えたモノ。カウントを稼ぐことに四苦八苦した四球は1つもなかった。

7月のナゴヤ球場。少し気がかりな記憶があった。17年7月2日、藤浪は同じ2軍中日戦で右打者の石垣に頭部死球を与え、危険球退場している。似たような状況となった今回。3年前からの成長を内容と結果で証明した形だ。

平田2軍監督が「スピードガン、遅かったよな」と感じていたナゴヤ球場で最速151キロを計測。序盤は強い直球で押し込んで意識させ、中盤以降はボールゾーンに逃げる変化球を振らせた。2軍戦とはいえ、希望を感じさせる投球だったことだけは間違いない。

昨秋、今春のキャンプでは山本昌臨時コーチから手首を立てたリリースを教わった。右足から左足へのスムーズな体重移動も懸命に体に染みこませてきた。新型コロナウイルス感染に練習遅刻による2軍降格、右胸の筋挫傷…。相次ぐつまずきで1軍開幕ローテ争いから離脱したが、復活へ、地道に前進を続けている。

中日戦後、投球フォームについて聞いた。「自分と勝負しているようでは…。自分のことを考えずに投げられるようにしたい」と返ってきた。課題とされてきた右打者相手の投球にも光が差している。自分との戦いはもう、終わりに近づいているのかもしれない。