阪神は9日、揚塩健治球団社長(60)が12月1日をもって辞任すると発表した。3月と9月に複数の新型コロナウイルス感染者が相次いで出るなどチームの混乱を招いたことの責任を取った。揚塩社長は兵庫・西宮市内の球団事務所で会見し、陳謝した。18年10月に最下位低迷による金本知憲監督の辞任に伴い、当時2軍監督だった矢野監督の就任要請に動いた人物だった。後任は未定。

   ◇   ◇   ◇

猛虎復活へ、道半ばだった。揚塩球団社長は会見の冒頭で陳謝し、辞任を決断した理由について「3月に続いて(9月の)今回、2度にわたって球界全体にご迷惑をかけた事実は否めません。着任以来、いろいろな混乱を招いた球団内の最終的な責任者は私」と語った。藤原球団オーナーに今季限りでの辞任を申し入れ、承諾された。

阪神は開幕前の3月下旬に3選手が新型コロナに感染し、外部の人間を含めた大人数での会食が問題視された。9月下旬には1、2軍の5選手とスタッフ4人が罹患(りかん)。他に2選手が保健所から濃厚接触者と認定され、4選手は球団独自の濃厚接触者扱いとなって、10選手が出場選手登録を外れる事態に陥った。その際は名古屋市内で球団内規の2倍の8人での外食が発覚。うち3選手が陽性になった。また別の4選手は禁止されていた同ポジション同士で外食し、うち2選手が感染。夏には、緊急事態宣言下の5月に一部選手が不要な遠出をしたことを報じられていた。

揚塩社長は「コロナに感染したことだけをもって辞任するわけではございません。予防していても感染するリスクはあります」とした上で、「着任以来、1つ1つの事案をここでは申し上げませんが、そういった混乱を招いたこと、これは球団内の最終責任者は私」と繰り返した。周囲の批判の的にもなった管理責任を取って退くことになる。

17年12月に同職に就任。05年以来のリーグ優勝、85年以来の日本一を矢野監督とともに目指し、今季も戦いの半ばだ。矢野監督や選手らにはこの日に辞任する意向を伝え「矢野野球。これをぜひ残り試合でも体現してくれと話をしました。超積極的、諦めない、誰かのために」と訴えた。

この日の発表となったのも「1日も早い混乱の収拾を願って」のもの。「選手たちの1日も早い実戦への復帰に対しても、ご理解を賜りたいと考えました」と言い添えた。チームは遠征先での外食は一切禁止となり、感染予防対策の見直し、徹底を進めている。9月に球団内規を守らなかった選手に何らかの処分を科す方針が示されていたが、揚塩社長はリポート提出も義務づけ、球団幹部による個別面談も実施していると明かした。激動の20年シーズン。残り26試合、虎がどんな戦いをするだろうか。

◆阪神過去のフロント引責辞任 04年の「一場問題」が知られる。ドラフト有力候補だった明大・一場靖弘投手に対し、自由枠での獲得を目指した複数の球団が日本学生憲章に反して現金を渡した。同年8月に巨人が食事代などの名目で約200万円を渡したと公表し、渡辺オーナーが辞任。10月には阪神が25万円、横浜が60万円を授受していたことが発覚。阪神は久万オーナー、野崎球団社長が辞任(野崎社長は取締役として球団に残り、後に連盟担当に就任)した。

<阪神2度のコロナ感染>

◆3月 藤浪がプロ野球界で初の感染者となり、翌日には伊藤隼、長坂の感染も判明。3選手の感染経路は不明ながら、他に4選手と球団外の人物を合わせ、不特定多数で大阪市内の知人宅で会食していた。外出自粛が呼びかけられる中でのことで、うち阪神選手の同居家族、同席した20代女性2人も感染。球団は活動休止となった。伊藤隼が中日2軍戦に出場したナゴヤ球場も消毒するなど他球団にも影響が及んだ。

◆9月 2軍で浜地の感染が確認された。数回にわたるPCR検査では1軍の糸原と陽川、岩貞、馬場の4選手、1軍スタッフ4人の感染も判明。遠征先での外食は禁止だったが、広島、名古屋では指定日に限り、球団関係者、家族とならば4人まで、同ポジションは禁止など制約を設けて認めていた。しかし、9月唯一の指定日だった19日に名古屋市内の飲食店を貸し切っていた福留、糸原らは計8人で会食。浜地と岩貞らは投手だけの計4人で別の飲食店の個室で会食しており、ともに内規を破ったことが問題視された。