前例のないドラフト会議だった。新型コロナウイルスの影響により、オンラインで実施。育成も含め123人が指名されたが、この日を迎えるために不可欠だった各球団のスカウト活動は、コロナによる制約を大きく受けた。

西武渡辺GMは「一番は、クロスチェックをしていないこと。移動リスクを考えた」と振り返る。万一を考え、一球場に赴くスカウトの数を絞った。これまでは、担当以外のスカウトも交え、複数の目で視察するクロスチェックを行ってきた。必要があれば、視察したスカウト陣の多数決で最終的な評価付けを決めることもあった。だが、クロスチェックをしていない以上、多数決もできない。同GMは「今年は、しょうがない」と受け入れていた。

クロスチェックをなくした球団は少なくない。その分、担当スカウトの評価が、これまで以上に反映されたはず。責任は増した。あるスカウトは「担当選手を見る時間が増え、逆に悩む」と打ち明けた。一方で「他のスカウトの評価と比較できないから、自分の判断で推すしかない。担当選手を見る時間が増えたのはプラス」と前向きに捉える声もあった。

スカウトの目利きが一層、求められる年だった。ハードルは上がった。感染拡大の中では練習をのぞくのもはばかられたし、大会中止や試合数減で視察機会そのものが減った。スカウト歴40年以上の大ベテラン、広島苑田スカウト統括部長は、多い時は年間360試合以上、視察していたという。「今年は5分の1ぐらい」。それだけに、初の試みとなったプロ志望高校生合同練習会は「ありがたかった。どうしても行けない県もあり、見ていなかった選手を見られた」。多くのスカウトが来年以降も実施を望んでいる。

ただ、たとえ視察できても、より慎重な判断が求められた。コロナによる活動休止の影響で、本来の力とは異なるパフォーマンスの可能性が考えられたからだ。DeNA進藤編成部長は「チームによって仕上がり具合にばらつきがあった。145キロを出しても、状態が上がりきらない中での145キロかもしれない」と指摘する。できるだけ異なるタイミングで視察を重ね、調子の波の把握に努めた。ロッテ永野プロ・アマスカウト部長は「パフォーマンス不足の原因は何か。個々がイマジネーションを働かせないといけない。技術不足なら時間がかかるが、筋力不足ならプロで鍛えればいい。それを想像する。経験が問われる」と言った。

困難な条件でも未来の主力を発掘しようと、スカウトの人たちは全力で活動した。その末に選ばれた123人。彼らの中から、未来のスターが育っていくのを期待したい。【古川真弥】