勝って涙、負けて涙の早慶戦となった。早大は1-2で迎えた9回2死一塁から、蛭間拓哉外野手(2年=浦和学院)が逆転2ラン。その裏を楽天ドラフト1位指名のエース早川隆久投手(4年=木更津総合)が抑え、15年秋以来10季ぶりの優勝を果たした。優勝46回は法大と並ぶリーグ最多タイ。無敗Vは03年秋(10戦全勝)以来2回目だ。劇的な結末に、早大ナインも、慶大ナインも涙が止まらなかった。

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1万人超の視線が小宮山悟監督(55)にそそがれた。優勝監督インタビュー。60年前の早慶6連戦時の指揮官で恩師の石井連蔵氏のことを振られると、言葉に詰まり目頭を押さえた。「墓前にいい報告ができます」。早川の頬にも涙が流れた。ところが、その後の会見で「監督さんのインタビューは耳に入ってませんでした。ここまでやってよかったなと考えてました」と、ばつが悪そうに打ち明けた。正直な告白に、隣で小宮山監督は笑っていた。

前日に122球完投勝利。この日は同点かリードしていれば最後を締めるプランだった。出番は1-2の8回2死一、三塁。ビハインドだったが「早川と心中」と監督に送り出され、後続を断った。「抑えた後は必ず、やってくれる」。願いは土俵際の9回2死から実った。蛭間の1発に、神宮の右半分が揺れた。後輩の大仕事に「全員の魂が乗り移ったホームラン」と感極まった。その裏も抑え、歓喜の輪の中心に立った。

早慶戦までの2週間。小宮山監督が「勝てば優勝」とハッパをかけるのとは対照的に「優勝より伝統の一戦ととらえよう」と仲間に言い続けた。「自分では優勝を意識しました。甲子園の経験も積んだのでプレッシャーは大丈夫。でも、経験がない選手もいる。監督の言葉で緊張を高めつつ、和らげられたら」。投げるだけじゃない。監督に指名された主将の務めを考え、かじ取り役も担った。

4年間でアマトップの投手に成長したが、優勝には縁がなかった。「6大学にしかない天皇杯を獲得しないと、入った意味は何なんだと」。ピースを埋めた。表彰式で手にし「重い。鳥肌が立ちました」。やってきてよかった。【古川真弥】

▽早大・小宮山悟監督(就任2年目、4季目で優勝)「いろいろな試合を見てきましたが、今日の試合が人生で一番感動しました。慶応義塾の素晴らしい選手と相まみえ、感謝します。最高のライバルです。(蛭間の1発は)奇跡が起きました。ちょっと恐ろしい」

▽立大・竹葉章人捕手(打率4割2分9厘で初の首位打者)「素直にうれしいですが、捕手としてチームを勝たせられなかった悔しさもあります」

◆元プロ監督の優勝 19年秋に慶大で優勝の大久保秀昭監督(元近鉄)以来。同監督は17年秋、18年春を含めて優勝3度。早大では56年春の森茂雄監督(元イーグルス)以来2人目。47年秋から57年まで指揮した森監督は通算9度優勝している。他には60年春の法大・服部力監督(元近鉄)、14年春の代行を含めて慶大で3度Vの江藤省三監督(元巨人、中日)がいる。