楽天田中将大投手(32)と巨人菅野智之投手(31)が27日、練習試合のマウンドに上がる。田中将はヤクルト戦、菅野は広島戦にそれぞれ先発。球界最高峰右腕はシーズン開幕に向け、どんな投球を見せるのか。

2人が最後に投げ合ったのは、13年の日本シリーズ第6戦。メジャー移籍前年の田中将、ルーキーイヤーの菅野の投球を、当時の紙面で振り返ります。(所属、年齢など当時)

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<楽天2-4巨人>◇2013年11月2日◇Kスタ宮城

マー君が負けた。日本一に王手をかけて先発した楽天田中将大投手(25)が12安打で、今季ワースト4失点。プロ入り後、自己最多となる160球を投げ、完投負けを喫した。序盤に2点リードをもらったが、制球が甘くなった5回以降に失点を重ねた。昨年8月19日西武戦以来となる黒星で、ポストシーズンを含めた連勝は「30」でストップ。対戦成績は3勝3敗の五分となり、巨人に逆王手をかけられた。今日3日の第7戦(Kスタ宮城)で、日本一をかけた最後の大勝負に挑む。

最後の1球に、気持ちを込めた。2-4の9回2死二塁。田中は巨人高橋由を2ボール2ストライクと追い込んだ。「(0に抑えたいのは)9回だけじゃない。球場をどうやったら盛り上げられるか考えた」と、152キロ直球で空振り三振。狙い通りだった。歓声を浴び、大股でベンチへ戻る。目をつり上げ、腰掛けても無言のまま。最終回の攻撃に逆転を信じたが、かなわなかった。

「投げミスが多かったのは確か。それを確実に打たれてしまった。大事な場面で自分の力のなさが出た」

そう早口に言って、責任を背負い込んだ。序盤は、いつもの田中だった。力強い直球をコースに決め、スプリットを落とし込んだ。2回までは完璧に抑えたが、徐々に歯車が狂う。2-0の5回、先頭坂本の二塁打から1死二塁とされ、ロペスに浮いたスプリットを左翼席に運ばれた。さらに、2死一、三塁で高橋由に勝ち越し打。12安打4失点の結果に「まだまだ、下手くそだっただけ。甘い球が多かった」と繰り返した。

敗れはしたが、務めを果たそうとした。球数が120を超えた7回、星野監督に交代を打診されても降板しなかった。「代えられる雰囲気はなかったし、自分も行くつもりだった。最後までマウンドに立ってやろうという気持ちはあった」と志願の続投だった。終盤3イニングを0に抑え、望みをつないだ。160球はプロ入り後最多。キレ、精度は落ちても、9回でなお150キロ超を連発した。両軍王手の第7戦は総力戦となる。中継ぎ陣の負担を減らしたかった。

田中で敗れたショックを引きずるわけにはいかない。開幕24連勝のシーズン中、星野監督は「田中で負けた後の試合が大事なんだ」と言っていた。その大事な試合が、日本一をかけた最終決戦となった。

もっとも、敗戦後の星野監督は穏やかだった。「良いとか、悪いとかじゃない。これだけ投げてくれて、最後の最後で黒星がついたけど、この1年間、感謝している」と心からねぎらった。志願の続投も「エースの意地があるのだろう。(オフにメジャー挑戦なら)ファンの前で投げるのが今日で最後というのも、あったのだろう。立派だよ。お客さんも田中の負けを見たんだから、本当に幸せだ。こんなこと、なかったんだから」と受け入れた。

田中は「自分のできることをやりたい」と、第7戦のブルペン待機も辞さなかった。だが、160球も投げた翌日にブルペン待機はないだろう。今日の一戦を、マー君抜きでも一丸となって勝つ。それが1年間、フルに戦ってきたエースに応える道だ。

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魂を込めて腕を振った。第2戦に続き楽天田中との投げ合い。全てを託された巨人菅野智之投手(24)が、大仕事をやってのけた。7回3安打2失点。2点のリードを置き土産に、ベンチで勝利の時を待った。「やるしかない。その一心だった。自分を信じてやるしかない。余計なことは考えなかった。内容はあまり良くありませんでしたが、チームが勝てたことが一番うれしい」。敵地で挙げた大金星に誇らしげだった。

少々のプランのずれは関係なかった。「先制点が大事。それは相手が田中投手となれば1点の重みは、いつも以上に重くなる」。先取点が勝つための絶対条件だった。だが、不運が襲った。2回に1死から四球と安打で二、三塁のピンチを招いた。続く嶋は三ゴロに打ち取ったが、三塁手の村田と走者が重なり本塁進入を阻止できず先制を許した。なお、2死三塁で聖沢の平凡な打球を一塁手ロペスが、まさかのトンネル。わずか1安打で2点も先行された。

重すぎる2点。味方のミスも絡んだが、毅然(きぜん)とした振る舞いを貫いた。むしろ、そこから投球のギアを上げた。3回、4回は3者凡退。「前回は変化球を打たれて、少し悔いが残った。真っすぐで押していこうと思った」と、勝負どころは140キロ台後半の直球で力勝負を挑んだ。「『絶対に勝つ』という気持ちはいつも以上に強くもって投げた」と、反撃ムードを演出。第2戦の黒星を受け止め、そこから学び、逆転勝利に結びつけた。

徳俵に追い込まれたチームを救った106球。「厳しいところを任されたなと、心が弱気になるときもあった。でも、勝ったらヒーローだと自分に言い聞かせた。とにかく、うれしいです」と、やっと肩の力が抜けた。難攻不落の無敗エースをプロ1年目の菅野が、ぶっ倒した。

(2013年11月3日付日刊スポーツ紙面より)