本家ゆずりの「どすこい」は少し控えめだった。よくばり君こと西武ドラフト1位・渡部健人内野手(22)は、2打席連続3球三振で迎えた6回の第3打席。「何でも振ってやろうと思って打席に入った」という言葉とは裏腹に、初球ボール球を見送ると、2球目の116キロの真ん中低めのカーブを左翼席へ。プロ初安打が初本塁打に「自分のスイングすることをファームでやっていたのでそのまま出た」。愛嬌(あいきょう)のある顔がほころんだ。

ベンチ前で同期の若林からあおられ、スタンドに向かって両手を突き上げるどすこいパフォーマンス。けがで離脱中の山川から“拝借”し「山川さんが帰ってきたらやめます」と恐縮した。けが人続出の窮地で、前夜に急きょ空路で福岡入りし即先発起用。活躍と元気を届けたい人がいた。

昨年8月に父和秀さん(55)が新型コロナウイルスに感染。発熱2日後には意識不明で横浜市内の病院に緊急入院。人工呼吸器につながれ、医者から「もうダメかもしれない」と大学4年の渡部ら家族に伝えられた。無意識の中でも「(10月に)ドラフトがあるからそのときだけは退院させてくれ」と父が言っていたのは後から知った。

意識は戻っても面会不可で、看護師に預けた映像では「プロになって車を買ってあげるから、頑張ってくれ!」と照れながら伝えた。1カ月後の退院時の会話は「ただいま」と「おかえり」だけ。まだ後遺症がある父に、言葉じゃなくてもドラ1らしくバットで快方を後押しした。

敵地ソフトバンク戦3連勝は04年以来17年ぶり。首位もガッチリキープした。渡部は「チームを勢いづけられるようにやっていきたい」と、最高の親孝行をしてとんぼ返りした。【栗田成芳】

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