「超人」に年齢という概念は通用しない!? 阪神糸井嘉男外野手(40)が不惑を迎えた今夏、シーズン中断期間中のエキシビションマッチで状態を上げ、13日の広島戦(京セラドーム大阪)で再開する後半戦に向かう。昨季は右膝の激痛に苦しんだが、今季は「全く痛みがない」。不安一掃の背景には、元広島アスレチックトレーナーで大教大の特任助教を務める橋本恒氏(48)の支えがあった。【取材・構成=佐井陽介】

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東京五輪に沸いた夏、40歳糸井が元気だ。エキシビションマッチ8試合出場で打率3割1分3厘。7月31日に不惑を迎えてなお、力強さを取り戻しつつある。昨季激痛に悩まされた右膝も、本人いわく「全く痛みがない。怖さもない」状態だという。

大教大助教の橋本氏は5月7日、今季1号に復活を確信した。「超人」は敵地DeNA戦の6回、左腕エスコバーの外角153キロをバックスクリーン左の観客席まで届かせた。「右足で踏ん張れないと、あそこまでは飛ばせないので」。

昨季は歩くだけで右膝に激痛が走った。何度水を抜いても翌日にはたまった。引退の2文字も脳裏をよぎっていた昨秋、糸井と橋本氏は二人三脚のリハビリを開始した。完治へのイメージを持ちづらい状況で、橋本氏は「筋肉バランスが崩れているだけ。正しい位置に戻せば大丈夫」と断言。蓄積疲労からくる肉体のひずみを修復しにかかった。

ジムとプールを使用して約3カ月、2日に1回のペースで約2時間の特訓を敢行。「本当にしんどいメニューでしたが、糸井さんは絶対に逃げませんでした」。2月のキャンプ期間に突入するころには、痛みは消え去っていたという。

今も右膝の痛みは皆無。「今年は明らかに打席で踏ん張れているし、スタートも切れている」。今季は激しい外野争いの中で慣れない代打を続けながら、スタメン出場した7試合では打率2割8分6厘、3本塁打、7打点。橋本氏は「このまま苦しいトレーニングを続ければ、まだまだできる」と力を込める。

リーグ戦再開は13日広島戦(京セラドーム大阪)。一時帰国から再来日したマルテの状態次第では、今後サンズが一塁に回って糸井が先発出場する可能性も十分ある。虎移籍後の過去4年間を振り返れば、8月は打率3割4分3厘、7本塁打、27打点。大好きな真夏、超人たるゆえんを体現してくれそうな気配が漂う。

橋本氏が真っ先に改善を図ったポイントが腸腰筋のズレだ。「姿勢を作る」とされる腸腰筋は上半身と下半身をつなぐ筋肉で、太ももや膝を持ち上げる動きを行う。この腸腰筋、腸腰筋の一部である大腰筋にズレが生じると、必然的に膝への負担が増すことになる。

「速い動きでも筋肉を正しい位置に持っていくには、主動筋と拮抗(きっこう)筋のバランスを整える必要がある。そこでプールを使わせてもらいました」

筋肉運動の際に主となる主動筋と、反対の動きをする拮抗筋。この2つのバランスを修正する中で、横隔膜の強化も重視した。

「大腰筋は横隔膜と筋膜連結している。なぜ大腰筋が機能しなくなってズレが出たかといえば、走ってゼイゼイと横隔膜を使う機会が減ったから。ゼイゼイ呼吸させて横隔膜をガンガン機能させれば、大腰筋も自然と働き始める。あとは水に頼む感覚でした」

橋本氏が例にあげたのが、母親の羊水の中で体のバランスを整えていく赤ちゃんだ。このイメージでプールを利用した。クロールに平泳ぎ、バタフライにスクワット…。10秒泳いだら10秒、20秒泳いだら20秒休む。心拍数を上げて横隔膜を使うため、過酷なプールメニューを1時間30分続け、体のズレを戻していった。

一方、右膝強化には平地でのバタ足を取り入れた。長年のトレーニングで太もも裏側よりも表側が発達している現状を把握した上で「後ろ側を徹底的に鍛えてもらいました」。チューブを使ったバタ足200回をノルマとし、膝周りのバランスも改善。結果、「超人」は踏ん張りが効いたフルスイングとスタートを取り戻した。

◆橋本恒(はしもと・ひさし)1973年(昭48)3月11日、岡山県生まれ。サンフランシスコ大学では運動部学生トレーナー。同大在学中にインターンで大リーグ・ジャイアンツのアシスタントトレーナーを3年間経験。01~03年は日本球界で広島のアスレチックトレーナーを務めた。現在は大教大の教育協働学科・スポーツ科学講座で特任助教。

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