13年前の08年の巨人-西武の日本シリーズ。西武の日本一をたぐり寄せたのは、今も「伝説の走塁」と語り継がれる片岡治大(やすゆき)の足だった。3勝3敗で迎えた日本シリーズ第7戦。1点ビハインドの8回に起きたドラマを本人の証言をもとに振り返る。4年連続盗塁王、スピードスターと呼ばれた男の盗塁論を4回連載でお届けします。(敬称略)【久保賢吾】(2回目以降の連載は無料会員登録で読むことができます)

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1点ビハインドの7回裏、2死から二塁手の片岡は一塁側ベンチ前に目を向けた。巨人越智大祐の姿が見えた。

「今、キャッチボールをやってるってことは続投だな」。

7回表の攻撃、無得点に終わったが、ベンチから越智の投球を目に焼き付け、イメージは頭の中で出来上がった。

「違うピッチャーだったら、また頭をフラットにしないといけなかったですけど、続投だったので、もしかしたら、いけるかもと思った」

8回、出塁をイメージしながら先頭で打席に立った。初球、速球が抜け、胸元を襲った。

「当たってでも何でもいいから、とにかく塁に出る」

2球目の直前、ホームベース寄りに半足前に立った。2球目の速球も同じように抜け、体に直撃した。

多少の痛みはあったが、ポンッと両手をたたき、一塁に向かった。ボールが当たった直後は、興奮したが、すぐに冷静さを取り戻した。

「何球目くらいに走ろうかな」

一塁到達後、岡村隆則ベースコーチに声を掛けられた。「サイン、見ろよ」。ハッとわれに返った。

「走ることしか考えてなかったですけど、コーチの言葉を聞いて『そうだ、そうだ。この場面はバントか』と」ベース上から、清家政和三塁ベースコーチのサインに集中した。

「あれ? ノーサインだな。これはどういうことだろ…。バントのサインが出ないってことは…。『片岡走れ』ってことか」

すぐに覚悟は決まった。マウンド上の越智を見ながら、ゆっくりとリードを取り始めた。

「何球目くらいにいこうかな…」

スタートを切るタイミングを考えながら、1歩2歩とリードを広げた。次打者の栗山への1球目。自らの行動に誰よりも驚いたのは、片岡自身だった。(連載2に続く)

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