大げさで恐縮だけれど、まずは“謎解き”から始めたい。正念場の5戦目を激闘の末、取ったオリックス。指揮官・中嶋聡は冷静さを装っていたものの相当、舞い上がっていたようだ。勝利監督インタビューで不思議なコメントを残した。

「(6戦目は)熱が上がらなければ山本由伸でタイに持っていきたいと思います」-。エースで勝負をかける意味で後半の部分は分かるが「熱が上がらなければ」とはどういうことか。

普段から応援している熱心なファンなら分かるかもしれないが、好ゲームの続く日本シリーズと言うこともあって注目し始めた野球好きにはなんのことか分からないかもしれない。

「中嶋監督はすごく慎重なんです。投手起用など何かを決めた後で必ず『熱が出なければ』などと“保険”をかけます。シーズン中からずっと同じです」。オリックス担当記者・真柴健はそう解説した。

もちろん、このセリフ、昨年から世の中を一変させたコロナ禍の影響でもある。指揮官として普段からそれだけ注意しているということだ。最初から「発熱しなければ」と言っていれば、すぐにそうと分かるのだが、少々、妙な言い回し。舞い上がっていた…と見る所以(ゆえん)だ。

無愛想でメディアを遠ざけがちな中嶋だが素顔は面白い。今でも覚えているのは現役時代の契約更改だ。神戸市にあった当時の合宿所「青濤館」で更改後に記者会見を行うのが恒例。そこに若かった中嶋はフラッと入ってきた。

「年俸、ナンボになったん」。こちらの問いかけに「これですわ」と言って紙切れをポンと投げ出す。そこには小さな数字で「5000万円」とあった。もちろん本物の契約書類などではない。金額提示のためだけの紙片か。あるいは中嶋のメモか。それともシャレで書いてきたのか。

それが何だったのか、いまだに判明していないし、今更聞けない。それでも金額をメモで見せるとは。あっけらかんとして、なんとも面白いと思ったものだ。

そんな男が複数球団で長い現役を続け、日本ハム時代は大リーグにコーチ留学もして成長。昨季、最下位だったチームを優勝させ、頂上決戦でも土俵際で粘り、思い出の神戸に戻ることを決めた。ここから3連勝で96年に巨人を倒し、宙に舞ったマジシャン仰木彬のように神戸の夜空を見上げられるか。楽しみは続く。(敬称略)