マスターズ甲子園2021が4日、兵庫・西宮市内の甲子園で行われ、神奈川県選抜の田口凌さん(19=横浜商)が念願の黒土を踏んだ。高校3年生だった昨夏の甲子園が新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止。憧れの舞台が突然、消えた。この日は「3番三塁」で先発。1回無死一塁で右飛に倒れたが、交代直前の2回、きっちりゴロを捕って三ゴロに仕留めた。

「人生の宝物になりました。僕たちの夏はコロナウイルスでなくなってしまって、ゴロすらさばける機会がなかった。体が反応しました。本当に最高の経験になりました。ありがとうございました」

田口さんは春夏で1度ずつ甲子園準優勝を誇り、通算16回出場の「Y校」こと横浜商(神奈川)でおもに内野手だった。未曽有のウイルス禍で昨年は悪夢を見た。甲子園中止の一報を聞くと「マジか…」と言ったきり絶句した。チームのミーティングでは1人ずつ思いを語っていったという。

「勝ちに行くか、楽しむのか」

8月の神奈川独自大会を前にして、ナインは意思を確認し合った。出した答えは「勝ちに行く」だった。3連勝したが、5回戦で桐光学園に完封負け。背番号20でベンチ入りしていた田口さんは現役を終えた。

「弟がいて、試合をしている。見に行くとちょっとうらやましいなとか、心のどこかでやりたかったな、とか、複雑で、心残りがありました」

2イニングの完全燃焼だった。「(心の)整理はできました。甲子園の大きさとか、威圧感を肌で感じられて、すごく楽しかった。高校球児の聖地という理由がすごく分かりました」。失われた夏を乗り越え、進むべき新しい道も見つかった。いまは帝京大で学ぶ日々だ。「将来は野球に携われればいい。観光とスポーツをどう交えるか。野球だけじゃなく、いろいろ楽しんでもらえる企画、ツアーを立てたい」。スポーツツーリズムに関心を持つ。

今夏の甲子園もテレビで観戦した。観客が入り、ブラスバンドの演奏がまぶしく映った。1年前、最後のミーティングを思い出した。「人のために、頑張る姿を両親に見せたいとか、お世話になった先生に見せたいというので、集大成を見せたい人が多かったので、その人たちに自分たちのプレーを見せられているのはすごくうらやましかったです」。この日は家族がプレーを見守った。最高の恩返しになった。【酒井俊作】