「越後の牛若丸」が逆転勝利をもたらした。高卒ルーキーの西武滝沢夏央内野手(18)が、連日のお立ち台で首位楽天撃破のヒーローになった。7回に安楽から同点の2点三塁打を放つと、さらに暴投の間に勝ち越しのホームも踏み、2安打2打点の活躍。13日に育成から支配下昇格したばかりで、デビューから2日連続でヒーローインタビューに迎えられた。チームは楽天に連勝でカード勝ち越しを決めた。

   ◇   ◇   ◇

164センチの体がみるみる三塁を陥れた。7回に1点を返し、なおも2死一、三塁。滝沢は自分より22センチ、22キロ大きい安楽の直球に力負けしなかった。白球が右中間を抜ける間に走者が1人かえり、2人目もかえり、追いついた。「いや、もう、本当に信じられない気持ちです」。プロ初打点が同点の2点三塁打になった。

大活劇は終わらない。続く外崎への2球目。変化球がバウンドするのを見るやスタートを切った。「勝手に反応した感じです。迷いなく走れたんじゃないかと思います」。50メートル走5秒8の足で決勝点をもぎ取った。滑り込んだ際に破れたユニホームの左膝が、名誉の勲章だ。

一瞬でもためらえば、おじけづけば、逆転はなかったかもしれない。辻監督は「担当コーチもミーティングで話していたけど、ずっと1軍にいた選手も見習えというくらいの、怖いものなし。それもあいつの特権だしね。技術だと思うし、それだけのことを一生懸命やっている」とたたえた。高校を卒業してまだ2カ月足らず。2日前まで背番号3ケタの育成選手だった。若い。背が低い。ともすれば弱点にもなりかねない要素を、武器に変えた。

当然、悩んできた。「でかい選手には勝てないんじゃないか」。さらなる成長期を期待して、サプリメントに頼った時期もあった。だが小さいイコール弱い、じゃない。「今日も(楽天側は)自分の身長を考えて外野が前進していた。間を抜ける打球が打てて良かったです」。球界最小兵なりの、戦い方がある。

はつらつとした高校時代の気持ちを忘れないように、登場曲は昨夏の高校野球応援ソング「夢わたし」にした。1軍デビューから2日連続の遊撃スタメン、2日連続のお立ち台。「本当、最高でした!」。届かなかった甲子園とは違えど、18歳の青春。忘れがたい景色を心に刻んだ。【鎌田良美】

◆滝沢夏央(たきざわ・なつお)

▼生まれ 2003年(平15)8月13日生まれ、新潟県上越市出身。

▼サイズ 164センチ、65キロ。

▼1回盛った!? 以前はプロフィルには身長167センチと記していたことも…。ただ今は正式な164センチに“訂正”。「球界一身長が低い。それを売りにしていこうと。それで覚えてもらえるように」

▼球歴 野球は保育園時代に三郷タイフーンで始め、城西中3年でKボールの県選抜に選出。自宅も近い関根学園に進学し、内野手兼投手として1年春から1桁背番号を背負うも甲子園出場なし。2年秋は県3位で北信越大会に出場。3年夏は背番号1で県8強。準々決勝で優勝した日本文理に10安打自責3で完投も、延長10回に2-5で力尽きた。昨年の育成ドラフト2位で西武入団。

▼名前の由来 8月生まれで「夏の真ん中に生まれたから」と夏央に。

▼異名 50メートル走は5秒8の俊足と機敏な身のこなしから「越後の牛若丸」。

▼投打 右投げ左打ち。

▼趣味 スノーボード。地元は1メートル超えも珍しくない豪雪地帯で、「スキー場も近くに。小さい頃からスキー授業というのもあったので楽しくて」。

▼推定年俸 450万円

 

▽西武佐藤(5回4失点で勝敗付かず)「球には力があったと思いますが、際どいコースがコントロールできませんでした。左打者に対して苦しんでいるところはあるので、次回までに調整したい」

西武ニュース一覧>>