阪神が4連勝で今季初のAクラスに「王手」をかけた。「トラフェス」と銘打った甲子園でのDeNA戦。全員の登場曲が懐メロになり、好調の大山悠輔内野手(27)は安室奈美恵の曲にノって、ノーノー左腕の今永から2打席連続のソロでけん引した。借金は最多16から5に。18日も勝てば3位浮上の可能性が出てきた。

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一瞬、空気が止まった。たった一振りの力に、甲子園を埋めた3万7803人の大半が息をのんだ。大山が確信めいたフォロースルーを高々と決める。静かに一塁へ歩き出した頃には、甲子園はさながらフェス会場と化していた。

「いつも青柳さんに助けられている。なんとか助けようと思って…」

大黒柱の青柳が3ランを浴び、1点差に迫られてから4分後。先行き不安な雰囲気を豪快に一変させた。6回裏、先頭で今永の初球、低め145キロを左翼中段席まで運んだ。2打席連発となる飛距離133メートルの16号ソロは今季青柳先発10試合で6発目。力ずくで流れを引き戻し、チームを4連勝に導いた。

4月下旬に左膝を負傷。5月は月間打率1割8分2厘と苦しんだが、交流戦では7本塁打、21打点の2冠に輝いた。患部の状態は上がっている。交流戦突入前に変更したバットも「しっくり来ている」という。ただ、体の状態や道具だけに数字が左右されているわけではないと、本人は強調する。

「左膝のせい、という話ではないんです。僕的には痛みがフォームに影響していたのかどうかも正直、分からないぐらい。ただ単にタイミングが合わず調子が悪かっただけです」

不調の要因を痛みに転嫁せず、もがき抜いたから今がある。新井打撃コーチとともに、左足で小刻みにリズムを取る「動から動」のスタイルを導入。確固たる形を築き上げた今、簡単には勢いを止められない。

この日は好相性を誇るノーヒッター今永から2発。3点リードの3回2死にはこれも初球の内角高め146キロを狙い打った。難解なコース、高さに左肘を抜き、ライナーで15号ソロを左翼ポール際席にズドン。「すごい打ち方で自分が一番ビックリ」と目を丸くする絶好調ぶりだ。

チームはいよいよ3位広島に1ゲーム差。18日中の3位浮上も視野に入ったが、快進撃の主役は「油断、スキを見せたら打撃なんて一晩で崩れてしまう。気の緩みだけはないように」と地に足がついている。

甲子園では4戦連続でお立ち台に上がり、「もう話すことがありません」と照れた背番号3。こんな困り顔なら、何日でも見ていたい。【佐井陽介】

 

○…大山は「トラフェス」の1日限定の懐メロ登場曲に、安室奈美恵の「Don't wanna cry」を選んだ。チョイスの理由を問われると「特にないです。キャンプの時に決めるんですけど、その時に聞いていた曲です」と照れ笑いしたが、開幕9連敗から泣き言を言わずはい上がってきた虎にピッタリな1曲。心地よいメロディーも力に変えた。