「フォークボールの神様」と呼ばれた元中日投手の杉下茂さんが、97歳で亡くなった。日刊スポーツ評論家の佐々木主浩氏(55)が16日、恩師の死を悼んだ。プロ2年目の大洋時代、キャンプの臨時コーチで指導を受け、フォークボールに自信をつけた。その後、当代きっての使い手となり、代名詞となった宝刀は、杉下さんの影響を大いに受けていた。「ハマの大魔神」が秘話を語った。
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杉下さんといえば、フォークの神様。2年目のキャンプでフォークの投げ方について「自分はどう考えているんだ」と聞かれた。「真っすぐが80%なら100%で思い切り腕を振ります」と答えると、「それで合っている」と言われた。自分の投げ方は間違ってなかったんだと、自信がついた。後に「本当のフォークを投げるのは佐々木だ」と話しているのを聞いて、認められてうれしかった。
自分はストライクを取るフォークは、手首を使ってスナップを利かせる。球に回転をかける。逆に回転をかけない時は、手首をロックする。杉下さんのフォークは、回転させないと言っていた。いろんなやり方を認めてくれた。すごい人だけど、自分だけが正解じゃないと。昔の人は、俺のやり方がすべてという人が多いけど、2年目の若造が「こう思います」と言うことも認めてくれた。器が大きい人だと思った。
人間の器だけでなく、手も大きい人だった。比べたら、自分と一緒ぐらいあった。指の広がりは杉下さんの方が広かった。フォークを武器にするなら、ボールを挟むために握力を鍛えろと言われた。だが、鍛え方までは言われなかった。ヒントは与えるけれど、そこは自分で考えさせる。これが重要で、すべては教えない。それがプロだと教えられた。
プロ2年目で杉下さんに出会えたことは、本当に感謝したい。キャンプに呼んでくれた須藤豊監督にも、感謝したい。ご冥福をお祈りします。