<阪神6-5ヤクルト>◇30日◇甲子園

 虎のサヨナラ男がまた決めた。阪神の新井貴浩内野手(31)がヤクルト戦の9回、左中間スタンドへサヨナラ2号ソロ本塁打を放った。広島から阪神にFA移籍し、本拠地甲子園で打った初アーチが劇的勝利をもたらした。4月27日の巨人戦では押し出し四球を選び、チームの今季2度のサヨナラ勝ちの立役者となった。チームはまたもや連敗を免れ、再び2位中日に2・5ゲーム差をつけた。

 迷わず天に拳を突き上げた。「行け!」「入れ!」。新井は叫びながら一塁を駆け抜けた。黄色に染まる左中間スタンドに白球が吸い込まれるのを見届けると、力いっぱい跳び上がって喜びを爆発させた。「とりあえず塁に出ようと思っていた。もう最高にうれしいです。ちょっとつまり気味だったんで、頼むから入ってくれと思って走りました。もう何と言っていいか。これだけのファンの皆さんに勇気のわく応援をもらって、最高の結果が出て本当にうれしい」。

 先頭で回ってきた9回裏。ヤクルト松岡のカウント2-2からの5球目の真ん中に甘く入ったフォークをフルスイング。浜風に乗った打球は、チームにとっても大きな新装甲子園1号となった。新井のサヨナラ本塁打は広島時代の02年5月29日の中日10回戦(仙台)の9回に落合から打って以来約6年ぶりだった。

 連敗を阻止する決勝打は4度目。抜群の勝負強さを発揮している。「昨日負けてて、試合前のミーティングでも連敗は避けようと話していた。本塁打もいつか出るだろうと思っていた。最後に僕が打ったけど、チーム全員の力だと思います」と言った。

 3番を任されているが、昨年12月に広島からFA移籍したこともあり遠慮があった。3月30日の初お立ち台では「はじめまして、新井です。よろしくお願いします」と恥ずかしそうに切り出した。そんな気後れが、4月11日横浜戦での出来事で吹っ切れた。マウンドで苦戦する先発安藤に一声掛けて横浜打線のリズムを切ろうか迷い、躊躇(ちゅうちょ)した直後に安藤が打たれ黒星。「新入りだからと遠慮していちゃ駄目だと思った」と言う。

 それ以後は、ハートも常に全力を心がけている。やっと阪神の新井になれた。27日の巨人戦でもサヨナラ押し出しを選んだ際も、喜びを素直に表し、両手でガッツポーズしながら歓喜の輪の中に飛び込んで行った。この日も、8回には遊ゴロの関本が気迫のヘッドスライディング。チームメートの必死なプレーを目の当たりに、新井も燃えないわけにはいかなかった。

 昨年10月6日の横浜戦以来となる4安打。さらに2打点の活躍に、クラブハウスに引き揚げる際には、集まった報道陣に「今日はノーコメントでいいですか?」とジョークも飛び出した。岡田監督も「まあ、この風だし、打つなら新井だと思っていた。右打者が打ったのはうれしいよ」と、予測通りの新井の活躍に思わず表情を緩めた。【福岡吉央】