<ヤクルト3-8阪神>◇5日◇神宮

 かつて浴びたことのない大歓声が阪神バルディリス内野手(25)を待っていた。雨中の激闘で泥だらけになったユニホームを着替え三塁ベンチを出ると、神宮の虎党から拍手のシャワーが降り注いだ。育成枠から1軍定着を果たした伏兵は、大きな1発に照れ笑いを浮かべた。

 「本当にうれしい。気持ちいいね。チャンスをもらったから何とかしたいと思っていたんだ」。

 4回に5得点を挙げながら、2点差に詰め寄られて迎えた9回だった。無死三塁が2死一、三塁。4番金本が敬遠された直後で追加点のチャンスが逃げかけていた。代走から途中出場し、この日の初打席が回ってきた。マウンド上にはこの日1軍復帰したばかりのヤクルト守護神・林昌勇。その3球目128キロ外角スライダーを強振した。雨を切り裂いた打球は左翼席に飛び込む3号3ランだ。

 「(3番)新井選手への投球内容を観察していたんだ。いいピッチャーだとは知っていたけど、きっちり準備はできていたよ」

 破天荒なタイプにも見えるが、野球に取り組む姿勢は繊細かつクレバーだ。葛城や他の選手のバットを譲り受けては、メーカー側に改良を依頼してきた。担当者は「10の指ではゆうに足りないぐらい」と驚くほどだ。ファームにいる時から練習方法を細やかに工夫し、首脳陣をうならせた。この日の試合前もバットのグリップを大きく余らせてティー打撃。「米国にいるときからやっていること。試合では戻すし、特に意味はない。強いて言えばコンパクトにコンタクトすることかな」。さらりと笑う姿勢が実を結んだ。

 前日4日は延長12回ドロー。5回以降0行進で、バルディリスも11回2死三塁の勝ち越し機に見逃し三振に倒れていた。なかなか追加点が奪えないもどかしさを打ち破ったことも大きい。岡田監督も「あの3点は大きかった。あのまま終わってたら、またダメ押し点が取れないという嫌な感じになっていたからな」と絶賛。はい上がってきた男が大事な局面で大きな仕事をやり遂げた。【片山善弘】